
京都の大学生が主体となって「これからの1000年を紡ぐ企業認定」の企業を紹介していく「京都寄り道推進室」より、堤淺吉漆店さんへのインタビューをご紹介します!
はじめに
京都には、「これだ!」と心が動く “こと” や “もの” との出会いがあります。それは、長い年月をかけて受け継がれてきたその存在に、自分なりの「関わり方」を見つけられた時に起こる特別な瞬間です。
今回訪れた堤淺吉漆店は、明治42年創業の漆メーカーです。採取された漆樹液(荒味漆)の精製から、調合・調色までを一貫して自社で手がけ、国産漆のトップシェアを誇る企業として知られています。4代目・専務取締役の堤卓也さんは、漆の新たな可能性を探りながら、未来へつなぐプロジェクトを積極的に行っています。そして、伝統を守りながらも、現代の暮らしに寄り添う漆の価値を発信し続けています。

今回は、そのように未来への一歩を着実に歩む企業で、昨年の4月から自分の軸を実現する一歩を踏み出した社員のスワローさんにお話を伺いました。

京都で生まれ育ちましたが、小学校の卒業後に
オーストラリアに4年半住んでいました。
糸口を探っていたからこそ見つけた入り口
スワローさんが漆の世界に飛び込んだのは、環境問題への強い思いがきっかけでした。スワローさんは、4年半住んだオーストラリアから日本に帰国した際、目にした光景に違和感を抱いたと言います。
「日本に帰ってきてスーパーに行くと、商品の包装にプラスチックが大量に使われていることに衝撃を受けたんです。しかも、海に行ったらゴミだらけで。オーストラリアと日本のギャップに驚いて、何か自分ができることをしたいと思いました。 」と、日本を一度出たからこその気づきがあったと話します。
そんな思いの中で出会ったのが漆でした。しかし、最初から漆が環境問題とどう結びつくのかはわかっていなかったと言います。ある日、環境問題に関わるイベントでボランティアをしていた時に、現在に繋がる出会いがありました。自分自身の環境問題に対する思いを伝えると、ある人に「漆って知ってる?」と聞かれ、堤淺吉漆店を紹介されたといいます。
そして、その3日後に堤淺吉漆店を訪れ、3時間にわたって漆のことを聞いた時、「うわ、これだ!」と感じたそうです。そして、4代目の拓也さんの考えに魅了され、「この人のもとで働きたい」と強く思いました。

「真面目だよ。全てメモを取るし、間違えることもあるけど、すぐに自分の中に取り入れる」と微笑む堤拓也さん。
漆は、大量生産・大量消費とは真逆の考え方に基づいています。本当に必要な分だけを採取し、丁寧に塗ることで何十年も使えるところことが漆の魅力です。スワローさんにとって、それは「本当に環境に優しい考え方」でした。
また、スワローさんは自分がハーフであることも活かせると考えたといいます。オーストラリアでの経験を生かし、漆と世界の接着点を見つけることができるのではないかと、現在模索していると話します。まさに、堤さんが話していた「できることを着実にやるしかない」という気持ちを体現しているように感じました。
スワローさんは、自分自身の軸を持ち、それを実現できる糸口を探っていたからこその出会いを形にすることができたのではないでしょうか。
コミュニケーションが生み出す一歩
スワローさんの熱心な漆の説明を聞いていると、漆は単なる塗料ではなく、「人と木の対話」であり、何世代にもわたって受け継がれる文化だと感じます。
「漆を採取するときに、漆の木をいきなり傷つけるとびっくりしてしまうんです。だから最初は小さな傷を入れて、4日後に少し大きくして、さらに4日後にまた大きくしていきます。そうやって、少しずつ対話をしながら樹液を取るんです。」

また、漆の木は自分だけでは成長できないといいます。鹿に実を食べられたり、ほかの木に栄養を取られたりするため、人の手によって守られ、育てられる必要があります。スワローさんは、樹液を取る際も、「木とのコミュニケーションが大切だ」と何度も繰り返します。気候や天候、職人の手の加減によって、採れる量が変わるためです。
「私たちは樹液だけを使うのではなく、木全体を活用することが環境への取り組みの1つだと考えています。だから、漆の器だけでなく、サーフボードを作ったり、木くずでTシャツを染めたりもしています。」
スワローさんの言葉1つ1つから、漆の仕事は「自然との対話」そのものだと感じます。だからこそ、スワローさんは「漆を通して地球を大切にしたい」という思いを強く持ち続けているといいます。

自分なりの関わり方を模索すること
漆の仕事は決して楽なものではないといいます。スタッフが少なく、仕事量も多いといいます。時には「何のためにやっているのか」と迷うこともあるそうです。
「正直、しんどいです。でも、このしんどさは、自分が達成したいゴールに繋がっていると毎回言い聞かせています」と話します。漆を通じて日本の魅力を再発見したスワローさん。実は、学生時代は日本に対してそこまで強い思いを持っていなかったそうです。
「漆に出会うまでは、日本が特別すごいとは思ってなかったんです。でも、漆を知ってから、伝統工芸の世界が広がって、そこから日本の良さに気づきました。」

現在、スワローさんは海外展開にも貢献したいと考えています。
「海外の作家さんや職人さんが作品を持ってきて、『これに漆を塗りたい』と言われる こともあります。今後、そういうコラボがもっと増えていくはずです。私も英語を使って関わっていけたらいいなと思っています」と、展望を語ります。
そのためにも、新しい仲間を増やしながら、もっと漆の知識を深めていきたいとも考えています。「漆の世界は本当に奥が深い。だからこそ、もっと学びたいし、漆の可能性を広げていきたいです」と、自分の軸を大切に、挑戦していく姿が印象的でした。

また、スワローさんは、消費者の皆さんが「自分なりの漆との関わり方」を見つけるきっかけをつくることも大切にされています。
「普段の生活の中で、『漆ってどこに使われているんだろう?』と考えてみてほしいです。実は、すごく身近なものなんです。」
最近では、銭湯とのコラボなど、京都に少しずつ漆が広がる新しい取り組みも増えています。
「京都市内のいろんな場所で漆を活用することで、もっと多くの人に知ってもらいたいです。そして、それぞれが自分なりの漆の形を見つけてくれたら嬉しいですね。」

おわりに
スワローさんのお話を聞いていると、過去と現在、伝統と革新、自然と人との間で対話を繰り返しながら、自分なりの関わり方を見つけることが一歩ずつ自分の軸に近づくことができるのではないかと思いました。
スワローさんのように、何かに衝撃を受け、自分の軸を持ちつつそこから手探りで自分の軸を明確にすることで、京都での働き方がより意味のあるものになっていくのかもしれません。
撮影・取材にご協力いただきありがとうございました。
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○ 株式会社 堤淺吉漆店
採取された漆樹液 ( 荒味漆 ) を仕入れ、生漆精製から塗漆精製、調合、調色を一貫して自社で行う、漆のメーカー。受け継がれてきた伝統の工法に加え、新たに開発した高分散精製工法を駆使し、お客様のニーズにお応えする漆を提供。
https://www.kourin-urushi.com/
○ 1000とKYOと
1000年先に続く持続可能な社会をつくろうとする企業と若者たちとが新たに出会い、対話・交流し、協働しながら、これからの働きかた・生きかたをともに探索するプロジェクト。