「らしさ」を守り続ける企業 – 『OCHICOCHI株式会社』 / 京都寄り道推進室 × 1000とKYOと スペシャルインタビュー #3

京都の大学生が主体となって「これからの1000年を紡ぐ企業認定」の企業を紹介していく「京都寄り道推進室」より、OCHICOCHI株式会社さんへのインタビューをご紹介します!

■ はじめに

現代の暮らしの中で「使えるキモノ」を提案する「着物屋」である「彼方此方屋」、姉妹店である「おちこちや京木棉」を運営する OCHICOCHI株式会社 。

着物を知ると、京都を知ることができる。京都を知れば、京都が好きになる。京都が好きになれば着物も好きになる。OCHICOCHI株式会社は、そんな素敵な循環を生み出す役割を果たしています。

今回お話を伺ったのは、OCHICOCHI株式会社の代表取締役社長であり、「おちこちや京木棉」の店長も務める田中良季さんです。京都に長年住んでいる田中さんが感じる着物の魅力と、その背後にある「思い」を探ってみたいと思います。

OCHICOCHI株式会社 代表取締役社長の田中良季さん
「おちこちや京木棉」では、備後絣、松阪木綿、近江ちぢみなどの産地木綿生地や、オリジナルブランド「京木棉・乙(otsu)」を取り扱っています。

■ 着物には「日本人のものづくりに対する考え方」が凝縮されている

今では、着物と毎日向き合う日々を過ごす田中さんですが、最初から着物が好きだったわけではありません。「ただ、家族が続けてきたことを残したいという思いで働き始めただけです」と、少し申し訳なさそうに話します。

田中さんは前職で舞台美術の仕事をしていました。しかし、家業を継ぐと決めて着物に関わるうちに、着物の魅力にどんどん惹かれ、次第にのめり込んでいったそうです。

「着物の魅力は、日本人のものづくりに対する考え方が凝縮されている点にあります。着物は、1枚の布を無駄なく活用しますよね。そこには、物をできるだけ無駄にせず、長く使うことを美しいと考える日本人の心が表れていると感じます」と、目を輝かせながら語る姿がとても印象的でした。

先人たちがすでにサステナブルやリサイクルの考え方を実践していたという事実に衝撃を受けたといいます。


サステナブルの取り組みの一つとして、おちこちや京木棉店舗での木棉の栽培があります。 使用している「エターナルソイル」は、廃棄衣料から作られているそうです。

■ 「フッ軽」な京都だからこその継続性

着物への愛情を事業として形にできているのは、京都という環境のおかげだと話す田中さん。

京都の人々の「フットワークの軽さ」は、京都で働く魅力の一つとであることを日々実感しているそうです。田中さんが考える「フットワークの軽さ」とは、「お金などの現実的な部分よりも、面白そうかどうかで決めること」。事業を進める際、自分たちの活動に共感してくれた事業者と関係を築くことが、新しい取り組みをしていける秘訣だと話します。

さらに、田中さんは、この「フットワークの軽さ」をお客さんにも体験してほしいと願います。「お客さんには、単に購入するという感覚ではなく、私たちが本当に良いと思う商品を気に入っていただき、それを持ち帰るために等価交換をするという感覚で帰ってもらいたい」といいます。

「お金以外の方法で等価交換ができたら面白いのに」と話す田中さんの姿から、着物屋という仕事を単なる商売としてではなく、着物の魅力を多くの人々に伝える活動と捉えているように感じました。

単なる商売と考えていないことが、一人ひとりのお客さんのことを考え、お客さんの気持ちに寄り添った接客を心がけている理由なのではないでしょうか。

素材・色味・デザイン・組み合わせ… 数多ある選択肢の中からお客様に提案をするためには、1対1のコミュニケーションは欠かせません。


着物屋では、昔も今も、同じお客さんが何度も通ってくれることを前提にコミュニケーションを重視しているそうです。そして、日頃の何気ない会話を通して、その人の好みに応じたおすすめを提案することを大切にしているとのことです。

OCHICOCHI株式会社では、お客さんと店員という立場を越え、1対1の人間同士としての関係性が築かれているように感じました。その結果、自然とお互いに思いやりの心が生まれているのではないでしょうか。この持続的な関係は、着物を継承していくために大切なことであり、伝統が受け継がれてきた京都の魅力の一つだと気づくことができました。

■ 普段着としての着物

着物を継承するための実践を行いながらも、実際には、より多くの人に着物を着てもらうことの難しさも日々実感しているそうです。

「僕たちは自分たちを呉服屋ではなく着物屋と呼んでいるんです」と田中さんは話します。その理由は、呉服屋が高級な織物を扱うのに対して、OCHICOCHI株式会社は「普段着としての着物」を提供しているからだそうです。

着物という言葉を聞くと、現代を生きる我々にとっては「特別な日にだけ着る晴れ着」というイメージがありますが、実際には洋服が海外から伝わるまでは「普段着」として着用されていた歴史があります。このことは、着物には多様なスタイルがグラデーション的に存在することを私たちに思い出させてくれます。

田中さんは、その感覚が忘れ去られている現状に対して危機感を抱いているといいます。「今日はディナーに行くからワンピースにしようという感覚で、さまざまな服のスタイルがある中で週に1日でも、今日は着物を着ることにしようと自然に思えるようになってほしい」と願っていました。

シンプルなものから個性的なものまで、様々な着物の楽しみ方を提案されています。

■ 着物を着てる人に寄り添えるまちに

田中さんによると、彼方此方屋、そしておちこちや京木棉を訪れる若いお客様は、茶道部などの部活動で着物を着る機会を持つ大学生が多いそうです。

「せっかく京都にいるから文化体験をしてみたいと思ってもらえたら、着物を着る機会ができます。そこも京都の魅力ではないかな」と話す田中さん。

そう言われてみると、私も京都の大学に進学したことをきっかけに、着物に対する想いが変わった1人です。着物をレンタルして観光したり、着物に関する授業を履修したりと、京都ならではの経験を楽しみました。

田中さんは、そのような京都ならではの魅力をもっと活かすことが、着物の継承に繋がるのではないかといいます。「まち全体で着物を着る人々に寄り添えればいいな。『着物のまち・京都』と胸を張って言えるようにしたい。」と、力強い声で話していました。

若者に着物を選ぶ選択肢を提供したいという願いだけでなく、その実現に向けて環境を整えていく姿勢が、私たちにとっても着物を継承するために何かできることを考えるきっかけとなりました。

「TPOやドレスコードは守るべきですが、それ以外の部分では好きに着物を着たらいいと思うんです。それがその人のスタイルなんですから」という最後の言葉には田中さんの思いが全て込められているように感じました。

着物に合うアクセサリーや小物も充実しています。
( ※こちらは彼方此方屋で撮影したお写真になります。)

■ おわりに

伝統としての着物だけでなく、日常生活における「着物」の存在田中さんのお話を聞いて、「着物」が身近なものであることを実感しました。

また、「着物」を通じて、個性を大切にする街・京都へとOCHICOCHI株式会社さんが導いてくれるように感じます。

撮影・取材にご協力いただきありがとうございました。

○ OCHICOCHI株式会社

現代の暮らしの中で「使えるキモノ」を提案する、京都、烏丸・河原町からもアクセス便利な「着物屋」である「彼方此方屋」、姉妹店である「おちこちや京木棉」を運営。オリジナル木棉着物、リサイクル着物の販売・加工・買い取り・お手入れなどを行う。

彼方此方屋(おちこちや)

おちこちや京木棉|京都 木綿着物 専門店

○ 1000とKYOと

1000年先に続く持続可能な社会をつくろうとする企業と若者たちとが新たに出会い、対話・交流し、協働しながら、これからの働きかた・生きかたをともに探索するプロジェクト。

ABOUT 「私たちが紡ぐ、これからの1000年。」について| 私たちが紡ぐ、これからの1000年。

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