
京都の大学生が主体となって「これからの1000年を紡ぐ企業認定」の企業を紹介していく「京都寄り道推進室」より、シサム工房さんへのインタビューをご紹介します!
はじめに
京都での生活には選択肢が多いと感じます。お金がないときは、鴨川で音楽を聴きながら本を読み、500円のモーニングを食べに行く。少し贅沢できるときは、レトロな建築でケーキとコーヒーのセットを楽しむ。そんな風に自分の状況によって選択できることが、日々の豊かさに繋がっているのではないでしょうか。
そのように私たちの選択肢を増やしてくれる企業が京都には溢れています。その1つが、今回取材させていただいたシサム工房。
シサム工房は、1999年に京都で小さなフェアトレードショップとして生まれました。フェアトレードの明確な基準を守りながら、アジアの生産者と貿易を行い、日本国内で直営店やオンラインストアを運営しながら、全国にオリジナルフェアトレード商品の卸販売も行っています。
今回は、シサム工房の村上雅敏さんにお話をうかがいました。

直感を頼りにたどり着いた場所
高校を卒業して、関西の予備校に行くことになった村上さん。その時、なぜか大阪ではなく、京都の予備校に1年間通うことになったといいます。大阪の大学に進学し、就職のタイミングで、また京都に戻ってきました。それからずっと京都で暮らしています。
「京都の暮らしは、どこか落ち着くんですよね。でも、観光客のような気分も味わえる不思議な街であることが魅力ですね。少し異邦人を楽しんでるような」。そのような京都に“なんとなく”居心地の良さを感じているといいます。
そんな京都には、ものづくりが根付いています。「うちの会社は、アジアの手仕事を大切にしているんですが、京都にも手仕事の文化が息づいているのが面白い。京都に拠点があるからこそものづくりに関心がある人が多いと思います」と語る村上さん。京都だからこそ集まってくる人たちは、シサム工房と相性が良いように感じます。

夏には、大文字山の五山送り火をみることができるそうです。
村上さんが今の会社に興味を持ったきっかけは、大学時代の海外旅行の経験でした。「ただ観光地を巡るんじゃなくて、屋台でご飯を食べたり、安い宿で現地の人と話したりするのが楽しくて。そこに、新しい世界が広がる感じがあったんですよね。」欧米の文化はある程度馴染みがあったが、東南アジアはまったく違ったといいます。
「常識が通じない、価値観が全然違う。そんな異文化の中で、現地の人とのやり取りを楽しんでいるうちに、『こういう人たちとずっと関わっていたいな』と思うようになったんです」と、大学時代に現在の仕事に関わる種を撒かれていたと話します。
そして、当時雑貨店のバイヤーだったシサム工房代表の水野泰平さんに出会いました。当時の雑貨部門にはアーティストの方や個性の強い人が多い中でも、水野さんは「どこか異質な雰囲気を持った人」という印象があったと過去を振り返る村上さん。
水野さんは仕事に対する軸があって、「いい仕事をしたい」という想いに共感できたからこそ、「この人と一緒に働きたいな」と思い、シサム工房で働くことを決めました。
思いやりを形にする働き方
シサム工房は、フェアトレードを通じて、インドやネパールといったアジアの国々の職人たちと一緒にものづくりをしています。「関係を大切にすることが、良いものづくりにつながると信じています。」と、村上さんは人との対等な関係性を強調します。「普通のビジネスだと、採算が合わなくなると取引をやめることもあります。でも、シサム工房では、そこで諦めるのではなくて、何かできることをみんなで模索していきます。ずっとお付き合いしていくという前提があるから」。村上さんのお話を聞いていると、フェアトレードは、ただの経済活動ではなく「人と人のつながり」の上に成り立っていると感じます。

シサム工房は、「お買い物の力で担い手になる」というメッセージを発信しています。「普段の何気ないお買い物が、実は遠くの国の誰かの暮らしを支えているんです。」実際に、フェアトレードの商品を買うことで、現地の職人たちが安定して仕事を続けられるといいます。「それを、誰かがやってくれるのを待つんじゃなくて、自分が担い手になる。そんな意識が広がっていくといいなと思っています。」と話す村上さん。
しかし、「フェアトレードのものだけを買わなきゃ」とか、「完璧にしなきゃ」と思う必要はないといいます。「たとえば、ボトムスは量販店で買ったのものだけど、トップスはフェアトレードの服にするとか。そんな小さな一歩でも、すごく意味があるんです」。
大切なのは、「できる範囲で、少しずつ」実践していくこと。それは、まさに思いを相手に向けることから始まるのではないでしょうか。

これからのこと—日々の選択肢を広げていく
シサム工房が目指すのは、フェアトレードを「選びやすいもの」にしていくこと。「フェアトレードは、知識としては知っていても、実際に買う人はまだまだ少ない。でも、知ることで、日々の選択肢が少しずつ変わっていくと思うんです」と、目を輝かせながら話す村上さん。フェアトレードの商品を買うことが、特別なことじゃなく、自然な選択肢のひとつになるように。
「お買い物をすると、ちょっと幸せな気持ちになることってありますよね。フェアトレードのものでも、そんな風に楽しく選んでもらえたらいいなと思います」。
また、今後の展望についても教えていただきました。それは、この活動を次の世代へとつなげていくこと。
「今の自分たちだけで終わるんじゃなくて、次の世代にもバトンタッチしていくことが大事。だからこそ、今あるものをどうアップデートしていくかを常に考えています」と話します。

おわりに
京都という街には、人とのつながりを大切にする文化があるように感じます。シサム工房のものづくりも、そんな「思いやり」に支えられているのではないでしょうか。
思いやりを持つことで、人とのつながりが深まる。そして、日々の選択肢が広がっていく。そのような連鎖が広がっていく風土が京都には根付いているのかもしれません。

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○ 有限会社 シサム工房
フェアトレードの明確な基準を守りながら、アジアの生産者と貿易を行い、日本国内で直営店やオンラインストアを運営しながら、全国にオリジナルフェアトレード商品の卸販売も行う、京都発祥のフェアトレードブランド。
シサム工房 フェアトレードとエシカルファッション・手仕事のお店(京都/大阪/神戸/東京)sisam.jp
○ 1000とKYOと
1000年先に続く持続可能な社会をつくろうとする企業と若者たちとが新たに出会い、対話・交流し、協働しながら、これからの働きかた・生きかたをともに探索するプロジェクト。