まちの楽しみ方を伝え、ツアーを通じて参加者の人生を豊かにする「まいまい」
多様な“ひと”が主役のまち歩きツアーを開催する、「これからの1000年を紡ぐ企業認定」第7回認定企業の合同会社まいまい。大量消費・一極集中の従来型の観光とは違うまちの楽しみ方を提案し、日常の中にある何気ないまちの魅力を価値として提供します。特徴のひとつが、参加者が新しい視点を身につけ、日々の生活にも豊かさを広げていけること。そんなまいまいのツアーはどのように生まれ、どんなことを目指しているのか、代表の以倉 敬之さんにお話を伺いました。
京都に来る人を相手に何を売るか、という発想ではない
── まいまいさんのサービスは観光という括りで紹介されることが多いと思うのですが、業界の中ではかなりユニークな存在ですよね。
そうですね。観光や旅行という意識の参加者は、半分もいないと思います。「まいまい京都」のツアーはお客さんの約4割が京都の方ですし、近畿以外の地方から来られる方は2割ほど。趣味や習いごとのような感覚で参加されている方も多いと思います。だから、類似サービスがあるようでないんですよ。
なので、コロナ禍も乗り越えられました。騒ぎが始まった2020年はやはり大変でしたけど、なだらかに元に戻っていったので。
従来の観光は、京都に来る人を相手に何を売るか、という発想がほとんどでした。私たちはむしろ、まいまいのツアーに参加するためにわざわざ京都まで来てくれる人たちに対して、サービスを提供したい。これからの観光は、コンテンツで人を呼ぶことが大事だと思っています。
── 以倉さんは、どういう価値を提供したくて、まいまいを始められたんですか?
単純に、おもしろそうだなと思った、っていうところからのスタートなんです。“ひと”に焦点を当てようというコンセプトが最初にあったわけではなく、「どういうツアーが楽しいかな?」と考えていった結果、ガイドさんの個性からツアーをつくっていく今のかたちにたどりつきました。
ある時から、行政が開催するまち歩きツアーみたいなイベントが増えてきて。自分も携わってみると、これは民間がやった方がいいだろうな、と感じたのが一つのきっかけでしたね。その方が持続可能だし、マーケットと向かい合った方がおもしろいものが生まれるだろうと。マスツーリズムと呼ばれる画一的な旅行とは違う旅のあり方として、体験に価値を置いた小規模なツアーが望まれていると感じました。
── 何を資源と捉えるかが、従来の観光とまいまいのツアーでは違う気がするんです。お寺や美術館のような名所を売り出すんじゃなくて、ガイドさんという人が資源になっていて。参加者の姿勢も、単なる消費とは違う印象があります。
そうですね。お客さまというよりも、共同プロジェクトに参加していただいている仲間のような意識を持っています。こちらが提供して、お客さまが受け取って、という一方通行ではないですね。旅行会社の添乗員は食事時に姿を消すことが多いのですが、僕たちは、スタッフも参加者さんも一緒に机を囲む方が楽しいと思っています。
参加者さんのテーマに対する熱量の高さが重要
── ツアーの企画は、以倉さんが考えているんですか?
先にアイディアがあるのではなく、人との出会いから企画が生まれるんです。おもしろそうな人を見つけたら、「アタックしてみよう!」って。どれだけいいネタを思いついても、やってくれる人がいないと実現できないので。そこから、京都と東京のメンバーがそれぞれで集まって、あれこれ言いながら案を作って。週1回の全体ミーティングで話し合って決めていきます。
ガイドさんが決まったら、次は最も重要なタイトルを作ります。集客も内容もタイトルによって決まってくるので。タイトル作成には私もずっと参加していますし、開催するかどうかの判断も見ています。ネタとしてすごくおもしろくても、ツアーというかたちでの実現が難しい場合もあるんですよ。講演の方が活きるようなお話とか。あまり枠にとらわれず、色んなツアーをつくっていきたいんですけどね。
── 本当に多種多様なガイドさんがいますよね。
実は、ガイドなんて初めてという方も少なくありません。でも、万人に受ける話をしてほしいわけじゃなくて、その人がもう何時間でも語れるような話題を、そのテーマに対して前のめりな方々に向けて話していただくので、大丈夫なんです。もう少し声を大きくとか、専門用語の解説がほしいとか、そういう細かな調整は、同行するスタッフが参加者さんの表情を見ながら随時お伝えしています。
ガイドさんがよく驚いておられますね。「けっこう専門的な話題でも、まいまいの参加者は目をキラキラさせて聞いてくれる!」と。そのツアーに興味関心が高い方を、我々がどれだけ期待度を高めて集められるかが重要です。熱量の低い方が参加してしまうと、ガイドさんも不安になって話しづらくなって、全体が盛り下がってしまうので。やはり、まいまいのツアーは主体的な参加が欠かせない、共同プロジェクトなんです。
伝えたい人と知りたい人のマッチングとも言えるんですけど、単純に人と人をつなぐだけでは難しいところがあって。ツアーにすることで、顕在化していないニーズを引き出しているのかなと思います。まち歩きツアーを探す人自体がまだまだ少ないので、パッと見て「おもしろそう!」と思ってもらえるかどうかが鍵ですね。
── 参加者さん同士で、コミュニティができていきそうですね。
ガイドさんと参加者さんが仲良くなって、我々の知らないところでツアーが企画されていることもあります。事前に言ってもらえると助かるんですけど……(笑)。リピーターの方は多いですね。100回を超えている方がけっこういるんです。一番多い方は、400回以上参加いただいています。ありがたいことに、参加者さん同士で情報交換をして、他のツアーをおすすめし合ってくださっていて。
── すごいですね!私は残念ながら、去年申し込んだツアーの抽選にことごとく外れてしまいました。
そうだったんですね!すみません……。人気の企画はけっこうな倍率になってしまうんです。よかったら、ぜひ11月に開催する京都モダン建築祭にいらしてください。
まちを目の前にあるものから楽しんでいく
── 建築祭は去年から始まった新しい取組ですね。
ツアーって、参加のハードルがけっこう高いと思っていて。実際に申し込むには、わりと思い切りが必要じゃないですか。もうちょっと気軽に来ていただける機会をつくりたかったんです。ツアーに参加したいことのない方にもたくさん来ていただけて、手応えを感じています。私たちが大事にしている「まちを目の前にあるものから楽しんでいく」ことは、建築祭にも通じています。まちを構成する大きな要素として建物があるので、建築がわかると、まち歩きがより一層おもしろくなるんです。一方で、まちを深く楽しむ視点をもつにはやはりツアーが向いているので、建築祭をきっかけにツアーにも参加いただけたら嬉しいですね。
── その場の楽しさだけで終わらず、ものの見方を習得できるところがまいまいさんの企画の特徴だと思います。楽しみ方がわかると、次に違う場所に行った時にもそのまちを楽しめますよね。
そうありたいと思っています。視点が変われば、いつものまちが新しい世界になる。そういう経験が人生の豊かさにつながっていくんじゃないかなと僕たちは考えていて。知識の押し付けではなく、新しい視点との出会いの場になるよう気をつけています。こういう楽しみ方を、世の中にもっと増やしていきたい。
「これからの1000年を紡ぐ企業認定」の認定企業さんとも、さっそく一緒にツアーをやらせてもらいます!まずは、便利堂さんとのツアーがこの10月に実現しました。柔軟にジャンルを広げていきたいので、今後、他の認定企業さんともコラボレーションさせていただければと思います。
── それは楽しみです。その道を突き詰めておられるおもしろい方がたくさんいるので、ぜひ!
取材・文:井上 良子 / 田中 慎 / 柴田 明(SILK)
■企業情報
合同会社まいまい
〒616-8191 京都市右京区太秦中山町29 (一財)京都ユースホステル協会 内
URL|https://www.maimai-kyoto.jp
以倉 敬之
まいまい京都代表。高校中退後、バンドマン、吉本興業の子会社勤務、イベント企画会社経営をへて、2011年「まいまい京都」創業。2018年には「まいまい東京」も開始した。NHK「ブラタモリ」清水編・御所編・鴨川編に出演。京都モダン建築祭、神戸モダン建築祭実行委員。共著に「あたらしい『路上』のつくり方」。