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経営理念
伝統は革新の連続
弊社の経営理念「伝統は革新の連続」は現 代表取締役の西堀耕太郎が2004年に5代目当主就任後に掲げたものです。就任時には和傘の需要減により業界は衰退し、弊社の年商も100万円台にまで落ち込みました。4代目が廃業を決意する中、当時和歌山県新宮市の市役所職員として勤務していた西堀が、妻の実家である日吉屋で京和傘の魅力に目覚め、脱・公務員。5代目に就任しました。2006年に京和傘の技術や構造を活かした和風照明「古都里-KOTORI-」を開発し、海外展示会に積極的に出展。2007年にはグッドデザイン賞を受賞する等評価をいただき、現在は15か国に展開しています。
和傘が平安時代頃に中国から伝来した当時は、身分の高い人の後ろから付き人が日除けや魔除けとして差し掛ける開閉のできない大きな傘として使用されていました。その後、時代の変化と共に開閉できる仕組みが開発され、雨傘や歌舞伎等の伝統芸能の小道具として庶民にも広まっていきます。和傘も1000年以上の歴史の中で生活様式やニーズの変化に合わせてその姿を変え、長く生き続けてきたことで、現代では「伝統工芸品」と呼ばれるようになりました。このことを背景に5代目が掲げた経営理念が「伝統は革新の連続」であり、弊社は老舗の伝統を財産としながらも、ただ古き良きものを守るだけではなく、時代の変化に合わせて積極的に革新にチャレンジする「老舗ベンチャー」を目指しています。 -
経営理念に基づいて、具体的に取り組んでいること
京和傘の技術や構造を活かした和風照明を製造
前述の通り、弊社は京和傘の技術や構造を活かした和風照明を製造するという革新を起こし、京和傘という伝統を後世に残すため日々取り組んでいます。5代目が和傘を照明に転用するというアイデアをひらめき、その後、プロの照明デザイナーの力を借りてデザインを改良し、試行錯誤を経て商品化に成功した「古都里-KOTORI-」は、和傘と同じ竹と手漉き和紙を用いて製作しており、傘のようにシェードを開閉できる構造になっています。伝統工芸全般が限られた場面でしか使われることのない古いものと認識されていた中で、和傘の技術や素材を転用し、和風でありながら現代の生活に馴染むデザイン性を兼ね備えた商品は当時他に例がなく、出展した海外展示会でも多くの注目を集めました。また、弊社はこの海外展示会出展の経験から、現在弊社が「ネクスト・マーケットイン」と呼ぶ独自の手法を確立しました。弊社のブースに来場した現地のバイヤーから商品に対する「サイズが小さすぎる」「明るすぎる」のようなフィードバックを受け、それを基にデザイナーと共に商品を改良し、翌年の展示会に出展することで現地のニーズに合った商品を提案し、販売に繋げます。この手法により弊社は「古都里」の改良に留まらず、「MOTO」や「バタフライ」などの新たなシリーズも生み出し、15か国にまで販路を拡大してきました。
さらに、弊社では国内外の富裕層の個人邸や高級ホテル・レストラン、商業施設を顧客とするオーダーメイドにも取り組んでいます。伝統の枠に囚われず、素材、形状、サイズに至るまで柔軟に顧客の要望に対応することで、ザ・リッツ・カールトン京都やフォーシーズンズホテル京都など数多くの施設のインテリア照明として採用いただいています。
また、2012年には前述の「ネクスト・マーケットイン」手法を用いて、他の伝統工芸や中小企業の商品開発や販路開拓を支援するためのグループ会社「TCI研究所」を設立しました。個社の支援に留まらず、京都市、京都商工会議所、独立行政法人中小企業基盤整備機構、東京都等数々の行政機関や団体からご依頼を受け支援させていただいており、延べ支援企業数は約700社に上ります。 -
今後のビジョンや展望など
伝統産業界全体の底上げを図りたいと考えています
弊社ではコロナ禍をきっかけに自社ウェブサイトやオンラインショップの拡充など、ビジネスのDX化を積極的に進めています。2021年より越境ECに取り組み始め、自社の和傘や照明等の商品の他、焼物や染織など他の伝統工芸の技術を活かして開発された商品も含め、現在25社、合計1414点の商品を取り扱っています。これらの他社の商品は、弊社のグループ会社TCI研究所にて支援させていただいたメーカーのオリジナル製品です。弊社のオンラインショップでは、ただ商品を販売するだけでなく、その背後にあるものづくりのストーリーも一緒に買い手に届けることを大切にしています。現代では海外製品や百均の商品など、安価で機能性に優れた商品が溢れています。一方で、一つ一つ手作業で作られるため高額になりがちな伝統工芸品を市場に展開していくためには、機能的価値よりも情緒的価値を訴求するストーリーが重要です。弊社のオンラインショップは、他の伝統産業の職人たちの商品が、背後にあるストーリーが伝わることで正しく評価され、適正な価格で販売ができる環境を整え、また言語対応や海外取引の煩雑さから海外市場展開に踏み出せていない職人たちの新規販路開拓を支援することを目指しています。今後も取扱い企業数、商品数を拡充し、延いては伝統産業界全体の底上げを図りたいと考えています。
また、弊社ではインバウンド観光客向けのワークショップにも力を入れています。日本の訪日外国人観光客数はコロナ禍からの回復を見せており、2024年の月別の記録では2019年の数値を上回り続けている他、京都でも2024年6月の市内の宿泊者数に占める外国人比率は65%と半分を超えており、インバウンド需要の高まりが期待できます。弊社では以前から工房見学やミニ和傘、ミニ古都里作り体験などのワークショップを実施していましたが、近年ではワークショップの専任スタッフを配置し、富裕層向けの特別メニューとして直径約1mの本物の番傘作り体験を開始した他、市内の宿泊施設に対して積極的に提案を行いワークショップの提携先を増加させる等力を入れています。今後も社会情勢の変化や時代のトレンドに合わせてメニューを拡充していくことで、体験分野でも販路を拡大していきたいと考えています。 -
取り組みにより、どのような社会的インパクトを起こしてきましたか
伝統工芸業界全体のロールモデルに
伝統工芸の事業継承にあたって、京都を始め日本各地で様々な取り組みが行われていますが、元々小規模事業者の多い伝統工芸業界では、自律的に経営改革を行い営業に力を入れて利益を上げ、その利益で後継者となる弟子を継続雇用し、一定金額の給与を払い続けることは難しいのが現実です。弊社も元々は年商100万円台、家族のみで細々と和傘を作る小規模零細企業で、他の伝統工芸の工房と同様の課題を抱えていました。そんな中弊社は前述の通り「伝統は革新の連続」という経営理念のもと新商品開発、新規販路開拓を実践してきたことで経営が持ち直して現在まで存続することができています。元々同じ境遇にあった弊社が再興を遂げたことで伝統工芸業界全体のロールモデルとなることができ、前述のグループ会社「TCI研究所」による他社の支援や、企業や業界団体へ向けた講演を行う等、伝統工芸業界全体の底上げに寄与してきました。
また、無賃や安月給での住み込み修行が当たり前だった伝統工芸業界において、弊社は従業員の待遇改善にも取り組んできました。事業拡大により安定した給与を従業員に支給できるようになっただけでなく、一般企業の平均給与と同等の給与水準を実現し、従業員が家族や友人に誇りを持って自分の仕事について語れることを目指して取り組んでいます。 -
今後のビジョンや展望により、どのような社会的インパクトが期待できますか
若者が伝統工芸に夢と希望を持って参画できる地盤を作ることができます
和傘、着物、漆器等の伝統工芸品はこれまで、七五三や成人式等の特別なイベント事でのみ使用されるもの、洗濯機や食洗器が使用できず日常使いには向かないものとして認識され、現代の消費者の生活からはほとんど除外されてきました。そんな中、弊社がオンラインショップを拡充することにより、弊社の「古都里」を始めとするデザイン性の高いインテリア製品や、焼物食器、染織の技術を活かしたファッションアイテム等の雑貨など、消費者に対して現代の生活に取り入れやすい伝統工芸品を提案することができます。また、オンラインショップという気軽に購入できるツールを整備することにより、国内外問わず伝統工芸をより身近に感じられる環境を提供することが期待できます。
ワークショップの拡充に関しても同様に、これまで敷居の高い印象のあった伝統工芸の門戸を開き、誰でも気軽に体験できる体験メニューから、ニッチな富裕層向けの本格体験メニューまで幅広く取り揃えることで、消費者と伝統工芸業界の距離を近付けることができると考えています。
これらの取り組みは自社内で完結することなく、弊社がロールモデルとなって他の伝統工芸業界にもそのノウハウを普及していく所存です。これにより、小規模工房が個々に取り組むのでは成し得ない、国内外富裕層をターゲットに高付加価値商品、体験を開発、販売できるネットワークを確立することができると考えています。
また、伝統工芸業界全体の底上げが実現することで、業界内だけでなく、地域住民が地元の誇りに思える文化的価値の高い産業として伝統工芸を認識することも期待できます。これにより、若者が伝統工芸に夢と希望を持って参画できる地盤を作り、国内外の良質な顧客からの利益率の高い高付加価値商品の生産に従事することで、誇りをもって仕事に取り組みながら家族を養うことができる産業へと発展させることができます。さらに、次世代の子供たちが、幼いころから学校等で地域産業の歴史を学び、伝統工芸に親しみを持ちながら育つことで、若者を中心に伝統産業を新たなステージへアップデートを続けていける、そのような理想的な社会的インパクトを創出することが期待できます。 -
従業員・顧客・取引先への配慮
フレックスタイム制、テレワーク、時短勤務制度を導入しています
・就業規則内に「ハラスメントの禁止」に係る項目を設け、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメントを始め、人種、宗教、性的思考、性自認に関する言動によるものなど、職場におけるあらゆるハラスメントを禁止することを規定しています。またハラスメント相談窓口を設置し、すべての従業員が相談窓口へ申し出ることができる環境を整備しています。
・フレックスタイム制、テレワーク、時短勤務制度を導入しており、子育て中の女性を始め多様な人材が働きやすい環境を整備しています。またフランス人、台湾人のスタッフが在籍しており、国籍を問わず幅広い人材の雇用に努めています。
・女性の産前産後休業制度、男女問わず育児休業制度を導入し、現在の育休取得後の復職率は100%です。
・会社が推奨する資格を取得した場合に資格手当を支給することを就業規則で定めている他、京都商工会議所等の機関が主催するセミナーの受講を従業員に促進しています。 -
地域社会への配慮
地元の竹工芸工房から仕入れた京都産の竹を使用しています
・和傘、照明の材料である竹骨の一部には地元の竹工芸工房から仕入れた京都産の竹を使用しています。
・自社オンラインショップにて京焼・清水焼の器や京丹後の絹織物の販売を行い、ものづくりの背景にあるストーリーも含めて掲載しています。また、自社のSNS(Instagram, Facebook, Youtube)でもこれらの商品やストーリーの紹介を行い、認知度向上に努めています。
・祇園祭や葵祭に使用される傘の修繕・新調や、今宮神社の今宮祭で使用される提灯の修復・新調・取り付け作業、地域の地蔵盆で使用される提灯の修繕・新調を請け負っている他、二条城や京都迎賓館に傘を納めた実績もあります。 -
環境(未来の社会)への配慮
観光客、修学旅行生へ向けたワークショップを開催しています
・国内外の観光客、修学旅行生へ向けたワークショップを開催しています。(工房見学、ミニ和傘・ミニ古里都作り体験等)
・5代目による全国の大学、商工会、商工会議所、企業へ向けた講演を実施しています。