「伝統工芸×サスティナブル」の取組をコミュニティの力で世界に発信する「京都デニム」
手描き友禅染めを施したデニム素材のプロダクトを国内外に販売する第7回「これからの1000年を紡ぐ企業認定」認定企業の京都デニム(有限会社豊明)。コミュニティによる技術継承に挑戦するなど、「伝統工芸×サスティナブル」を軸に、社会の動きを見つめながら軽やかに進化を続けてきたブランドです。大学生の頃から代表取締役の桑山 豊章さんと共に事業を行い、マーケティング・店舗運営・コミュニティづくりを一手に担う取締役 宮本 和友さんにお話を伺いました。
雇用ではない関係だからこそ、柔軟性が生まれる
── 最近はどのような取組をされていますか?
社会人インターン「デニスク」は2期目になりました。毎週月曜に集まって、京友禅染めや京小紋染めの染色や図案作りを学んだり、課外研修に出かけたりしています。雇用でもコンサルティングでも有料のスクールでもなく、コミュニティとして活動する意義をすごく感じますね。僕たちは技術を教えて、メンバーからは商品に対する率直な意見をもらったり、彼らが持っている知見や感性を共有してもらったり。僕たちにとっても、ものづくりをアップデートする機会になっています。
2022年9月に始まった1期は4人が来てくれて、8ヶ月間のインターンを経て卒業展を開きました。2期の7人と活動する中で考えたのは、卒業時期を定めるのをやめようということ。伝統工芸の技術は奥が深くて、やればやる程もっと学びたくなる方もいると思うんです。
メンバーは20代から40代の仕事を持っている方々なので、皆の得意なことを業務としてお願いすることもありますよ。店舗にも、デニスクのメンバーがはぎれで作ってくれた1点モノのポシェットが並んでいます。毎週6時間もかけてやっていることだし、有料にした方がいいかも……と考えたりもしたんですけど、やっぱりお金をもらわない関係の良さを感じることが多くて。踏んばってよかったです。
── これまでの伝統工芸にはなかった、新しい技術継承のやり方だと感じます。
従来の徒弟制度よりもオープンなかたちですね。もうすぐ京友禅染めの体験イベントを開催するんですけど、その日はデニスクのメンバーが教える側になります。「これからの1000年を紡ぐ企業認定」をいただいたこともあって、色々な方からいい取組ですねと言ってもらうことが増えました。コミュニティ運営を依頼したいとお声がけいただいたこともあるのですが、単発で終わってしまうと意味がないし、自社でやらないと続けるのは難しいと思います。
デニスクでは代表の桑山が教えているので、僕は新たに広報・PRを一緒に実践するコミュニティを始めようかなと考えています。ものづくりやクリエイティブに関わる人が、発信する力・自分たちで売る力を身につけると、まちが元気になっていきますよね。皆で集まってお茶を飲んで、「それかっこいいね、動画にして載せよう!」って言い合うことで、発信のきっかけを作れたら。
今のところ会社としては桑山と僕以外に社員はいないのですが、お誘いいただくことも増えて、色々な場でコミュニティが広がってきました。企業の方、行政の方、金融機関や大学の方とも関係性ができて、この動きが自分たちの新しいフェーズにつながるんじゃないかと思っています。
感覚が毎日少しずつアップデートされていく
── フットワーク軽く新しいことに挑戦していく姿勢が、京都デニムさんの大きな強みですよね。
今はインターネットのおかげで、誰でも新しい売り方・伝え方にチャレンジできますよね。この時代に生まれてラッキーだなと思います。呉服屋だった僕らがアパレルを始めてジーンズを売るようになって、コロナ禍の影響で今度はバッグに転換して。中国版Instagramと言われる「小紅書(シャオホンシュー)/RED」も、見よう見まねで始めたら、毎週のように投稿を見た中国の方がお店に来てくれます。フォロワーは200人もいないのに。
お店に立っていると、感覚が毎日少しずつアップデートされていくんだと思います。「なんでこれが売れるんだろう?」「最近この国の人がよく来るな」とか。肌感覚に近い、ささいな変化を見逃さないことが大事ですよね。子育てとか野菜づくりと一緒なんです、マーケティングも。僕たちはものをつくるところから、広報して、お店で販売して、修理までさせていただくので、お客さんとのコミュニケーションが長い期間つづきます。その分、深く捉えられることもあるんじゃないかな。
ありがたいことに、お客さんが周りの方に商品の背景を自慢してくださるんです。「京友禅の職人さんが1つずつ描いててね」「修理も染色もしてくれるから、長く使えるのよ」って。バッグや“でにぐま”を買うことで、社会にも良い影響を与えられる。そう思っていただいていることが嬉しいですね。
短期的な売上ではなく、コミュニティ形成につながる売り方を
── 壁に貼られている「売り方を考え工夫すれば結果は大きく変わる」「アイディアと工夫で解決」という言葉を、日々実行されているんですね。
そうですね、webサイトやSNSはいつも自分たちで構築するんです。すぐに動かしたいから。最近は、海外向けのECサイトを新しく作りました。しずく型のバッグに色んな国の人から反響があるので、「やってみよう!」って。決めてから1週間くらいで公開しましたね。僕はお喋りなので、お客さんにもすぐに「SNSやってるからフォローしてね!これQR!」って声をかけちゃいます。
ジーンズの販売を始めた当初は、本当に右も左もわからなくて。その都度、学びながら進んできました。百貨店に出店したら、売り場の方の接客を観察して、すぐに同じようにやってみるとか。ジーンズの縫製工場とパターンナーさんは、その頃流行っていたSNS「mixi」で探したんです。懐かしいですね。mixiの「コミュニティ」っていう機能で集まりをつくって、居酒屋でオフ会を開いて。そこで知り合った人とのつながりで、商品を作ることができました。
桑山は大学の写真サークルの先輩なので、今もサークルの延長みたいな感じなのかもしれないですね。小さなトライを繰り返しながら、少しずつブランドを広げてきました。販売方法は、ずっと直接販売のみ。百貨店などでポップアップストアを出すことはありますが、委託販売や卸はしていません。どうしても販売価格が上がって、お客さんに負担をかけてしまうことになるので。事業のパートナー選びにおいても、短期的な売上を考えるのではなく、コミュニティにつながるかどうかを重視しています。
何かあった時に、顔を思い浮かべてもらえる関係性を広げていけたら
── 2023年に京都市立芸術大学の移転があり、キャンパスが目の前にありますね!
このエリア一帯が大きく変わってきていますね。お店をつくった15年前には、文化芸術の拠点に、なんて話は全くなくて、「なんであんなところで店やるの?」とよく聞かれました。すでに大学とのつながりから良い刺激をいただいていますし、大学の隣にもアートやスタートアップ支援の拠点ができるそうなので、とても楽しみです。
課題の相談にお店に来る学生さんもいますよ、いきなり来るのでびっくりしますけど(笑)。自分たちも芸術系の大学に通っていたので、学生の方々が考えていること、悩むことがわかるんです。こんな僕たちでもお店をやれてるよって伝えることで、若い人たちの励みになれば嬉しい。仲間がいると、前向きになれると思うので。学生さんと一緒にアイディアを出しているうちに、お寺での現代アートの展示に協力することになったり、また次の展開が出てくるのも楽しいです。京都で20年以上やってきて、受けた恩恵をまちに返したいという気持ちもありますし、支援する側の大人として責任を持って一緒に活動できたらと思っています。
「これからの1000年を紡ぐ企業認定」に応募しようと決めてから、自分たちの業務の棚卸しをして、改めて京都デニムの魅力を考えました。それまでも色んなことを喋っていたけれど、整理して伝えられるようになりましたね。もっともっと僕たちのことを皆さんに知ってもらって、何かあった時に「宮本さんに聞いてみたら?」とパッと顔を思い浮かべてもらえる関係性を広げていけたらと思います!
取材・文:木村 響子 / 阪本 純子 / 柴田 明(SILK)
■企業情報
京都デニム(有限会社豊明)
〒600-8208 京都市下京区小稲荷町79-3
URL|https://kyoto-denim.com/
宮本 和友
京都デニム 広報・営業 / 取締役
全国から訪れる京都デニムファンの「マスコット的」店長。 江戸時代から着物製造を家業とするデザイナー桑山豊章とともに、職人の後継者育成や新 しい伝統工芸の発信を目指し、2007年「京都デニム」を立ち上げる。
京都デニム公式ウェブサイト https://kyoto-denim.com/ 写真や動画を使った SNS でのコミュニケーション、コミュニティーづくり、ブランドプロモーションを得意とする。 鳥取県出身 / 大阪芸術大学卒
趣味・関心:京都の文化・アート・写真・音楽
京都デニム 受賞・認定:これからの1000年を紡ぐ起業認定/京都市 輝く地域企業表彰 (2023) Z世代が惚れた!伝統工芸品大賞(2022) Kyoto Creative Industry(2014)