循環型のものづくりで地域に新たな価値をもたらす「Curelabo」

地方創生の視点からサトウキビの絞りかすのアップサイクルに取り組む、第7回「これからの1000年を紡ぐ企業認定」認定企業のCurelabo株式会社。バガスと呼ばれるサトウキビの繊維から糸をつくり、ジーンズやシャツを扱うアパレルブランドを展開しています。沖縄で生まれた技術を他の素材にも応用し、京都、広島、山形、ケニアなど、国内外のさまざまな地域で循環型のものづくりを推進する会社です。代表取締役CEO 山本 直人さんと、赤松 司さんにお話を伺いました。

色んな企業を巻き込んで、一緒にやっていけたらと思っています

── Curelaboさんの取組について教えてください。

赤松:代表の山本はもともと、広告代理店での仕事で沖縄の地方創生に携わっていました。活動の中でサトウキビ農家を訪れた時に、畑のすみに放置されているバガスの有効活用が地域の活性化につながるのではないかと考えたことが、現在のCurelaboの事業につながっています。

山本:当時の沖縄では、観光業が盛り上がる一方で一次産業は衰退し、基幹産業と言われていたサトウキビの生産量も急激に減少していました。製糖工場の壁に「サトウキビは沖縄の宝」って書いてあったんですよ。その宝が、産業として価値がないという見られ方をしている。それは嫌だなと思いました。

地方創生はCurelaboにとって大切な目標です。循環型の経済をつくって地域に新たな価値をもたらすことを目指しているので、今は糸を扱っていますが、商品は今後どんどん変わっていくかもしれません。

── バガスを糸にする技術はどのように開発されたんですか?

赤松:バガスは植物なのでセルロースという成分が含まれます。これを糸にできるのではないかと考えたのですが、繊維のかたちが不揃いで、そのままだとチクチクして使えないことがわかりました。色々な繊維を調べる中で、パルプから紙を作って糸にする「紙糸」の技術に出会ったことで、パルプに粉末化したバガスを混ぜるというアイディアが生まれました。この研究がNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)で採択されて、バガスをアップサイクルした糸の開発が実現しました。

その後、さまざまな企業とコラボレーションして、バガス以外にも商品の製造過程で出る廃棄物のアップサイクルに取り組んでいます。たとえば、ビールメーカーの麦芽やホップの絞りかす、飲料メーカーの茶葉などですね。生地をつくり、衣料として商品化します。現状、このような最終の商品まで作るパターンが多いのですが、今後は糸や生地など素材での販売をメイン事業にしていきたいと考えています。

── Curelaboさんはwebサイトで事業内容として「地域連携」「産学連携」「企業連携」を前面に打ち出しておられますよね。その企業姿勢がユニークだと感じます。連携についてどのようにお考えなのでしょうか。

山本:僕たちが掲げている大きな目標は、1社ではとても達成できません。色んな企業を巻き込んで、一緒にやっていけたらと思っています。自社の規模を広げて一社で完結しようとすると、狭い価値観でしかものごとを考えられませんし。

赤松:取締役CFOの隅田が産学官連携やスタートアップ創出に長年携わっているので、連携を広げやすかったというのも大きいですね。アップサイクルのビジネスモデルを各地域に展開して、各地の魅力を引き出していくことを会社として重要視しています。

衣食住に関わるものを幅広くアップサイクル製品に変えていきたい

山本:いま広島県福山市では、バラの枝を使ってジーンズを作っています。福山市は戦後の復興を願って市民がバラを植えたことがきっかけで、現在も「ばらのまち福山」としての活動が盛んで。2025年の第20回世界バラ会議の開催に向けて、行政の方と開発を進めています。

赤松:福山市はデニムの産地なんです。我々がデニムを織ってもらっている会社が福山にあったことで、今回のご縁がつながりました。他の都道府県でも、山形ではさくらんぼの枝、熊本県の天草市ではみかんの皮を使ったジーンズを開発中です。

── 各地域の農産物に技術を応用できるんですね。どんな作物でも何かしら捨てるものが出てくると思うので、有効活用できると非常にありがたいと思います。

赤松:アップサイクルの取組が広がると、意識改革にもつながりますよね。今まで捨てるしかないと思っていたものに対して、「何か価値を生み出せるかも」と考えられるようになる。いいサイクルが生まれているのではないかと思います。サイズや見た目が基準に合わないものは商品として出荷できないので、悩んでいる方は全国にいるはずです。未利用資源の活用だけでなく、特産品の開発という点でも役に立てることがあれば嬉しいですね。

── 沖縄に本社がある会社が、第二の拠点を京都に置くことは珍しいと思うのですが、なぜ京都を選ばれたんですか?

赤松:沖縄と京都は共通点が多いんです。どちらも観光資源が豊富で、織物の伝統産業がありますよね。そこにアップサイクルを掛け合わせることで、よりよいものが作れると考えています。スタートアップ支援も充実していますし、大学も多い。繊維を扱う京都工芸繊維大学があることも、我々にとっては重要なポイントです。

京都市とは、北山杉のおがくずや端材の活用に取り組んでいます。おがくずを糸にして林業をされる方の作業着に使えないかと、試作を進めている段階ですね。端材は、えんぴつへの加工を検討しています。上の部分にはくぼみがあって、花の種が入っているんです。えんぴつって最後まで使い切るのが難しいじゃないですか。この「はなさくえんぴつ」は、短くなったら地面にさして、水をやると芽が出てきます。この仕掛けが学習のモチベーションにつながればいいなと話しています。

赤松:衣食住に関わるものを幅広くアップサイクル製品に変えていきたいという思いがあるので、繊維に限らずさまざまな製品開発に携わっていきたいですね。食はまだ1点しか実績がないのですが、沖縄のバガスのパウダーが入った黒糖のこんぺいとうを作っていて、製造は京都の株式会社青木光悦堂さんにお願いしています。京都の企業さんとのコラボレーションした商品もいくつかあるので、将来的には、京都にもこうした商品を販売する店舗を開きたいですね。

「京風庵大むら」さんと作った京扇子
「小丸屋住井」さんと作ったうちわ
株式会社イワタさんと作った枕カバー

私たちの話を聞いた100人のうち、たった1人でも何かを始めてくれたら、社会にとって価値がある

山本:素材の卸販売という事業の軸でいうと、海外向けに糸や生地を販売するためのwebサイトを別でつくっています。先日ケニアに行ってきまして、商品にならない紅茶の粉をアパレルの生地にアップサイクルできないかという話が進んでいます。ケニアは世界一の紅茶の輸出国なんですよ。完成した服を、夏のナイロビファッションウィークで発表予定です。

山本:その出張にはもう1つ目的があって、帰りにパリに寄ってきました。ルイ・ヴィトングループが主催する「LVMHプライズ」でグランプリを受賞されたデザイナーさんと協業しておりまして。その方のブランドで、弊社の生地を4種類使っていただき、2024年1月のパリコレで発表されました。

── 世界に向けてアップサイクル事業を展開されているんですね!

山本:日本社会はもう、大量に作って大量に売る経済にはならないですよね。無理に単価を落として商品を作っても、地場産業の工賃は上がりません。1gでも多くの廃棄物、副産物に価値をつけてアップサイクルする。その積み重ねが何か大きな動きにつながっていくことを期待しています。誰だって、未来が良くなっていく方がいいじゃないですか。そのために、正しいことをコツコツやっていくしかないと思っています。本当に環境に良くて、且つちゃんと儲かっている会社は、日本にはほとんどないのが現状です。そこに成功事例ができれば、自分たちもやってみようと考える人が出てくるはず。

小学校の授業に呼んでもらったり、高校生が会社訪問に来てくれたりと、Curelaboの事業は教育現場でも活用いただいています。私たちの話を聞いた100人のうち、たった1人でも何かを始めてくれたら、社会にとって価値がある。儲かるから正しいことをやるっていうのは、順番が逆な気がして、なんか嫌なんです。まず正しいことをやる、その上でちゃんと儲ける。そういう会社でありたいですね。

取材・文:石井 規雄 / 井上 良子 / 柴田 明(SILK)

■企業情報
Curelabo株式会社
[京都事業所] 〒606-8307 京都市左京区吉田上阿達町17
https://curelabo.co.jp/
https://www.curelabo.com/

山本 直人
Curelabo株式会社 代表取締役CEO

全国に約10万件の観光企業・地方自治体のクライアントを抱える広告代理店に勤務し、取締役として沖縄県の営業所立ち上げに従事。
沖縄の地方創生に携わりたいという想いから独立。2018年に㈱Rinnovationを創業。サトウキビの搾りかす「バガス」を活用したアパレル素材を開発し、アパレルブランド「SHIMA DENIM WORKS」を立ち上げる。
2021年にアップサイクル素材メーカーとしてCurelabo㈱を創業。同年京都事業所を設立し、京都をはじめとした全国の未利用資源をアップサイクルした素材開発に取り組む。