地球上のすべての生命が安心して生活できる社会へ。「認定NPO法人テラ・ルネッサンス」
認定NPO法人テラ・ルネッサンスは、「すべての生命が安心して生活できる社会(世界平和)の実現」を目的として2001年に立ち上げられました。
「すべての生命が安心」と聞いて、ピンとくる日本人はどれほどいるのでしょうか。同法人は、本部のある京都府京都市と、岩手県・大槌町のほか、バッタンバン(カンボジア王国)、グル(ウガンダ共和国)、ブカブ(コンゴ民主共和国)、ブジュンブラ(ブルンジ共和国)にも事務所を設置しています。
法人名の「テラ」は「地球」、「ルネッサンス」は「復興、思い出す」という意味。まさに地球のさまざまな国で、あらゆる人々が安心して暮らせるようなサポートを行っているのです。
理事長を務める小川真吾さんが国際協力の世界へ入ったのは、大学4年生の頃、長年憧れていたマザー・テレサに会うため、ボランティアでインドのカルカッタへ行ったことがきっかけでした。
しかし、マザーは、なんと小川さんがインドに到着した当日に亡くなってしまいます。小川さんはマザーが入棺する前の最後のミサに参加。大勢から感謝で見送られるマザーの姿やその光景に胸を打たれ、「これは何か意味があるんじゃないか」と、国際協力の道へと進むことを決心したといいます。
大学卒業後、ハンガリーでの活動を経て、2005年から同法人の海外事業部長としてウガンダ共和国(以下、ウガンダ)やコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)を中心に活動し、2011年から現職に就きました。
現在はブルンジ共和国(以下、ブルンジ)を拠点として、海外事業を統括している小川さんに、同法人の活動内容や、どのような未来を“紡いで”いこうとしているのかなどをお聞きしました。
6カ国で活動中。特に力を入れている「子ども兵」の問題とは?
テラ・ルネッサンスの活動内容は多岐にわたります。その活動範囲は6カ国におよび、各国で実にさまざまな活動を行っているのです。
その内容は、カンボジアでの地雷の除去支援、ラオスでのクラスター爆弾の不発弾の除去支援、学校建設、ウガンダやコンゴでの「元子ども兵」を含む紛争被害者の社会復帰支援、ブルンジでの紛争被害者・最貧困層住民居住地域におけるコミュニティ開発、日本国内での平和教育、東日本大震災の復興支援として「大槌復興刺し子プロジェクト」など——。
例えば、カンボジアで地雷撤去の活動をしていて、「ラオスにもクラスター爆弾がある。支援ができないか」という流れで、現場のニーズが見えてくると、そこから派生して活動が広がっていったのだといいます。
現在は特に「子ども兵」「地雷」「小型武器」の3つの課題解決を目指しています。なかでも、小川さんが滞在しているアフリカで、大きな問題となっているのが「子ども兵」です。具体的には、どのような課題と活動内容なのでしょうか。
小川さん:「子ども兵」とは、自らの意思や強要によって軍や武装グループの一員となり、戦闘に参加する18歳未満の少年や少女のことです。
襲撃や殺人を命令されたり、少女の場合は性暴力を受けたりしています。戦闘に直接関わるもの以外の兵士(非戦闘員)も含まれ、世界で少なくとも25万人以上いるといわれています。
帰還して「元子ども兵」となっても、身体的・精神的な傷や基礎知識などの欠如により自立が困難なのです。
また「元子ども兵」は加害者でもあるため、近隣住民とのトラブルが多く報告され、ときに居場所がなくなり、再び戦場に赴くようなケースも出ています。
小川さんたちは、ウガンダで「元子ども兵」の社会復帰を支援する施設を運営し、職業訓練、基礎教育、小規模融資、トラウマケアなどの支援を実施しています。
2017年8月現在までに、延べ192名の「元子ども兵」と、その家族を含む紛争被害者1,078名に対して支援を行いました。
コンゴでは「元子ども兵」や孤児、性的暴力の被害を受けた女性、最貧困層住民など、延べ711名に支援活動を実施。ブルンジでも「元子ども兵」や紛争被害者のための自立支援センターを建設し、支援を行っています。
また、カンボジアでは、15年間で約334,000㎡(東京ドーム7個分)から地雷や不発弾の脅威を除去し、2,092名(323家族)に安心して暮らせる土地を提供しました。
海外の紛争や「元子ども兵」などの課題を“遠いところの出来事”だと感じてしまう人もいるかもしれません。しかし、テラ・ルネッサンスでは、「私たちは無関係ではない」と訴えます。
例えば、私たちの暮らしに欠かせない携帯電話やパソコンに使われている「レアメタル」は武装勢力の資金源になっている場合があります。紛争の要因の一つである資源の奪い合いは、日本に住む私たちも大いに関係している可能性があるのです。
「元子ども兵」たちは僕らがつくる“限界”を超えて成長する
小川さんは、ウガンダで「元子ども兵」のサポートをしていて気付かされたことがあるといいます。
小川さん:僕らが彼らへの支援として、『○年間でこれだけできたから、あと○年間でここを目指そう』と決めたとします。それはある意味で、彼らの“限界”を決めてしまうことになるんです。
10〜12歳で誘拐され、上官の命令がすべてという世界で、自由に話をすることもできない、自分の好きな食べものを食べることもできないような状況に10年近くいて、帰ってきます。
「子ども兵」になったばかりの頃は抵抗したりするんだけれど、だんだん彼らのなかに「適応的選好」が形成されるんです。
「適応的選好」とは、端的にいえば奴隷に近い感覚で、何かを「したい」と言っても「だめだ」と常に打ち砕かれていると、言うこと自体が恐怖になり、やめてしまうこと。不自由を受け入れ、自分の選好の度合いを下げてしまうのです。
小川さん:「元子ども兵」の子どもが帰還してから、その癖をカウンセリングなどで改善していくのですが、信じられないようなつらい状況にあった子どもたちが、どんどん変わっていったんですね。
うちでサポートをさせてもらった後、仕事に就き、公務員と同等の収入を得られるようになりました。それだけでもすばらしいことなのですが、東日本大震災があったときには、なんと日本の被災者に、自分の5,6カ月分の給与にあたる約5万円の募金を集めて送ろうとしていました。
人のことを思いやり、行動できるまでに成長していたんです。そのすばらしい歩みを見たときに、日本人こそ何か壁をつくって「適応的選好」に陥っているのではないかと感じましたね。
「オーダーメイド型」の支援こそが有効
テラ・ルネッサンスでは、現場で受益者に対してソーシャル・インパクトを出すために、「オーダーメイド型」のアプローチを行っています。
小川さん:国際協力の業界って、「元子ども兵にはこう、貧困層にはこう」と、けっこう縦割りで支援をしていくんです。ただ、「元子ども兵」といっても状況は多様です。ウガンダとコンゴではまったく違います。
誘拐された年齢も、兵士をしていた期間も性別も違うし、帰ってきたときに家族などに受け入れてもらえる子・もらえない子、親がいる・いない、障害を負っている・負っていない、PTSDの症状が高い・低いと、本当にさまざまなんですね。
もっと言えば、価値観は一人ひとり違うわけです。その人の価値観、立場に立って、役立てるものをこちらが考えないといけない。
やはり一人ひとりが違うんだと、当たり前のことに気付かされながら、一人ひとりに寄り添う「オーダーメイド型」の支援を現場では心がけています。
現場では想定しなかったことが起こることもあります。自分たちにあるリソース、つまり限られた人・物・お金、期間で成果を出すためには、「今、何をやるか」という判断の連続になるはずです。どう決めているのでしょうか。
小川さん:最終的に基準にするのはビジョンなんです。私たちが最終的に何を目指しているのか。そこを基準にして、どちらがいいかという議論を深めていきます。
テラ・ルネッサンスのビジョンは「すべての生命が安心して生活できる社会(世界平和)の実現」。そのための活動理念は、次の3つです。
1.私たちは一人ひとりに「未来をつくる力」があると信じ、市民の可能性を追求しています。
2.私たちは内なる変化がすべての変化の始まりであり、変革の主体者は私自身であることを理解しています。そして、他人も変革の主体者であることを理解し、相手を尊敬しています。
3.私たちはあらゆることは常に変化することを理解し、あきらめずに活動し続けています。
小川さん:いろいろな状況がありますから「ビジョン実現のために何をしたらいいの?」とスタッフが迷うこともあるでしょう。
これは理想論かもしれませんが、僕自身はインターン生やスタッフに対して、より抽象度の高い指示をして、仕事をしてもらえるような状況をつくりたいと思っています。
何か迷ったときは、効率性、「オーダーメイド型」の考え方、活動理念という基本的な方針、そしてビジョンに照らして、今は効率性を重視すべきか、「元子ども兵」のカウンセリングに時間を使うべきかなど、常に考えてもらうようにしています。
インターンシップ生も含めてスタッフは80名近くいますが、活動理念は深く浸透しており、それぞれが現状を伝える役割を担っています。海外にいる外国人スタッフの場合は、何を目指してどのような思いで活動しているか、現地の言葉に訳して理解してもらっているといいます。
ファン度を上げ、多様な人たちに支援をいただくことが大事
テラ・ルネッサンスは、企業ではなくNPO法人として持続可能な仕組みをつくり、ファンを増やし続けています。「私たち一人ひとりにできることがある」という発想から、現状を伝えることに力を入れ、1,000名以上いる寄付者と会員全員に活動の成果を伝えています。そうした成果の“見える化”によって新たな資金を得て、活動が成り立っているのです。
具体的には、年に2回、成果をまとめた冊子を制作して送付しています。「一年間にどんなことをしたか」をまとめた冊子と「どんな思いで活動しているか」をまとめた冊子です。
「顔の見えるNGOでありたい」という思いから、テラ・ルネッサンスのなかでどのスタッフが担当して活動しているのかについても、顔が分かるように掲載しています。
寄付や会費など、年間経常収益は約1億6400万円(2016年度)にのぼります。その内訳は、会費収入、寄付収入、事業収入、助成金等収入など。助成金は公益財団法人などの民間団体から得ているものが多く、自治体の補助金はできる限り少なくして、一般人、企業(団体)からの会費や寄付を重視しています。
小川さん:先ほど現場での「オーダーメイド型」の考え方の話をしましたが、支援をいただくことについても同じ考え方です。支援者さん、いわゆるお客さんに対しても「オーダーメイド型」で考えています。
支援者にも多様な人、団体、企業がいます。それぞれのロジックや考え方、寄付のモチベーションはさまざまなので、「それぞれに応じた対応をきめ細かくやっていこう」とずっと心がけているそうです。
例えば、電話でもメール対応でも、相手の状況を見て、それに応じた返答をする。マニュアル的な答えではなくて、できるだけコミュニケーションをとっています。
支援をしてくれた人へのお礼の葉書やメールの文章では、その表現に気を配っています。支援者は「与える側・与えられる側」という上下の関係ではなく、一緒に問題を解決するパートナー。「みなさんとこの活動を共に続けていきたいと思っております」などと、「みんなで平和の種を育てましょう」という姿勢を示しているそうです。
お金集めだけを考えれば、規模の大きい寄付を取るほうが効率はいいかもしれません。しかし、「多様な人たちに支援をいただくことが大事」と、あらゆる支援方法を用意しているのです。
小川さん:「ファンドレイジング」って「ファン度を上げる」ことなんです。関心を持っていただいて、活動を好きになってもらうことが大事。
単にお金集めをしているわけではなくて、まず関心を持ってもらうことが社会を変えていきますから。お金をたくさん持っている人だけをターゲットにするのではなくて、一般の方たちにできることを提供していく。寄付は一つの表現なのです。
お金を入れて終わりではなく、むしろそれがスタート。支援者のなかには、自動引き落としではなく、毎月あえて郵便局に足を運んで振り込んでいる人もいるといいます。その人にとっては、毎月のその行動が“世界とつながる行為”であり、「振り込むのがいいんです」と話しているそうです。
「自立」の支援に力を入れて「自治」を目指す
こうした活動の先にテラ・ルネッサンスが見据えているのは、「自立」と「自治」です。
例えば、ウガンダの元子ども兵の支援では、3年プログラムで「自立」がゴールになっています。「自立」とは、孤立ではなく「自分の能力を発揮して収入を得て、周囲の人たちといかに生きていけるか」を指します。
まず職業訓練を1年半受けて技術を身につけてもらってから、残りの1年半の間にミシンや木工の道具を渡して開業し、ときに壁を乗り越えながら収入を増やしていくことを目指します。
支援前と支援後では、大きく変化します。経済面では、平均月収が128円から、現地の公務員とほぼ同等水準である7,008円になります。多くが個人店を開業して木工や洋裁で収入を得るのです。
また、元子ども兵は村に戻っても受け入れてもらえないケースが少なくありませんが、疎外感を感じていない人の割合が26%から84%まで回復しています。身につけた技術が必要とされることで、居場所を見つけて関係性を再構築できているのです。
こうした変化の結果、自尊心や自己肯定感が高まり、それがトラウマのケアにもつながるといいます。悪夢をみる回数が減ったり、過呼吸の回数が減ったりして、子どもたちの内面も変化していくのです。
卒業した元子ども兵たちの多くは、「今度は自分が誰かを助ける番だ」と考えるようになります。「自分にできることをしたい」という地域社会への参画度でも、なんと0%から97%になっています。技術を教える先生になるなど、受けた恩を社会に還そうと考えます。
カンボジアの地雷埋設地域で行われている、地雷被害者がいる家族の支援では、野菜の種を配って野菜の育て方や肥料の作り方を学ぶ勉強会やワークショップを開いたり、家畜を貸して子どもを産ませたうえで親または子を返してもらう「牛銀行」を行ったりして、収入源を増やす取り組みをしています。
こうして自立心が育まれた人が増えると、「こんな村にしていこう」と未来が考えられるようになり、村や地域をよくしようと自分たちで動くようになって、「自治」が取り戻されていきます。カンボジアでは、自治会の開催を個別で呼びかけ、農作業が終わった夕方などにみんなで集まっています。テラ・ルネッサンスはあくまでもお膳立てをするだけ。「自治」の中身は現地の人たちが決めています。
日本的な価値観である「多様性の中のつながり」
最後に、ビジョンの実現に向けて、今どういう未来を描いているのかをお聞きしました。
小川さん:2031年までに、すべての子どもが紛争に巻き込まれない社会をつくりたいと思っています。設立が2001年なので、30年という節目で。
今年で16年目ですけれど、個人でも団体としても「15年でここまでこれた」と思う一方で、描いている理想からみれば、本当にまだまだ小さな活動だと思う部分もあり、具体的な中長期ビジョンを策定しているところです。
小川さんは「今、社会を変えるうえで日本的な価値観が重要だ」と話します。
国際協力のジャンルでは、欧米のNGOが長年つくってきた土台の上にその他のNGO・NPOの活動があるので、まだ欧米から学ぶことはあるものの、同時に「そこには限界があるのではないか」とも考えているそうです。
小川さん:日本的な価値観をベースにした組織の在り方、支援者に対してアプローチをするNGOが世界の先進国に増えてくると、世界平和に一歩近づけるのではないか、という仮説を持っているんですね。
日本的な価値観とは「unity in diversity」、つまり「多様性の中のつながり」という言葉が僕はしっくりきています。日本人はそういうバランス感覚に優れていると思いますよ。
日本人として、地球上で活動する小川さんたち。その視座や足取りは、日本に暮らす私たちに広い世界を届けてくれます。
私たちが「争いはなくならないものだ」と思っていたら、それは本当になくならないでしょう。では、何ができるのか——。
「ルネッサンス」は「復興、思い出す」という意味。まずは私たちが“自分にできること”を思い出す番なのではないでしょうか。
インタビュー・文:小久保よしの
■NPO情報
認定NPO法人テラ・ルネッサンス
〒600-8191 京都市下京区五条高倉角堺町21番地Jimukino-Ueda bldg. 403号室
TEL|075-741-8786
URL|http://www.terra-r.jp
小川真吾(おがわしんご)
1975年和歌山県生まれ。大阪工業大学工学部電子工学科卒業。1998年より青年海外協力隊としてハンガリー教育文化省に配属。2001年から2005年まで、国連特別諮問資格NGO「ネットワーク地球村」国際部職員に着任。2005年2月より、認定NPO法人「テラ・ルネッサンス」海外事業部長に。2011年、同法人の理事長に就任。2015年より上智大学非常勤講師も務める。2014年、同志社大学グローバルスタディーズ研究科博士前期課程修了。