社会(化)見学レポート|IKEUCHI ORGANIC株式会社

2016年5月18日(水)、IKEUCHI ORGANIC KYOTO STOREにて「1000年を紡ぐ企業認定トークセッション」が行われました。スピーカーは、京都市ソーシャルイノベーション研究所 所長 大室 悦賀氏とIKEUCHI ORGANIC株式会社 代表取締役 池内 計司氏。お二方で、IKEUCHI ORGANICの現在に至るまでの過程や新たな挑戦についてお話しいただきました。

 

01.
IKEUCHI ORGANICについて

IKEUCHI ORGANICは1953年に愛媛県今治市で創業したタオルメーカーです。「最大限の安全と最小限の環境負荷」を追求し、「風で織るタオル」としても知られています。同社の商品であるコットンヌーボーがグッドデザイン賞2015年度受賞。2015年12月には、タオル業界初、国際食品安全基準であるISO22000の認定を受けました。

IKEUCHI ORGANIC 池内社長

IKEUCHI ORGANIC 池内社長

02.
これからの1000年を紡ぐ企業とは?

皆さんは、このトークセッションが開催されるきっかけとなった「これからの1000年を紡ぐ企業認定」についてご存じでしょうか?京都市では、ソーシャルビジネスに取り組む企業やそれらを応援する人々が京都に集い、イノベーションを推進する「京都市ソーシャル・イノベーション・クラスター構想」が2015年に掲げられ、その推進拠点として、同年度より京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)が設置されました。そして、構想を実現するための事業の一つとして、「これからの1000年を紡ぐ企業認定」が行われており、その評価基準は、「四方良し」と定められています。これは、近江商人の「三方良し」(売り手よし、買い手よし、世間よし)に加え、未来を見据え、持続可能性のあるビジネスを実行している、「未来良し」という概念を追加したものです。この認定により、認定された企業はSILKや京都市や支援パートナーからのサポートを受けることが出来ます。

03.
IKEUCHI ORGANICの挑戦と現在に至るまでの過程

トークのはじめに、IKEUCHI ORGANICは120周年を迎える2073年までには「赤ちゃんが食べられるタオルを創る」というスローガンを掲げた池内社長。

京都市からの認定を受けたIKEUCHI ORGANICは、一体どのような経緯で現在の素晴らしい企業に発展したのでしょうか。

京都市ソーシャルイノベーション研究所 大室所長と池内社長

京都市ソーシャルイノベーション研究所大室所長と、池内社長

04.
風で織るタオルができるまで

今回のテーマであるIKEUCHI ORGANICの歴史の中では、とても偶然とは言い難い、人との出会いや、出来事の連続がありました。
同社は1953年に愛媛県今治市にOEM(他社ブランドの製品を製造する)中心のタオルメーカーとして創業しました。1983年に池内計司氏が父親の後を継いで代表取締役に就任し、その5年後の1988年に染色工場の建設を協同組合で行う計画が持ち上がりました。しかし、その工場を作ろうとした直前、「瀬戸内海アセスメント」という世界で一番厳しい基準が試行され、それを乗り越えるために、なんと4年かけて5億の最新の排水施設を配備することになりました。しかし、そのお陰で、世界で初めてオーガニックコットンを生産したデンマークのノボテックス社の社長の目に留まり、1996年から交流が始まったのです。そして、彼の勧めもあり、池内タオルは国際環境基準であるISO14001の認証を取得しました。
それを機に、日本最大級の環境展示会、エコプロダクツに池内タオルを出品することに。その場で行われた環境活動家との議論をきっかけに、2000年には業界初のISO9001を取得、2002年には、中小企業初の風力発電100%の工場として稼働し始めるまでになりました。そして同年、環境に関心の高い人が集まるNYホームテキスタイルショーに出展すると、なんとグランプリを受賞。それにより、国内での知名度も一気に上がり、全国の百貨店で池内タオルの商品が取り扱われるようになりました。また、その頃、他社との特許の問題で自社のタオルのタグを変更しなければならなくなり、急遽名付けたブランドが、現在知られている「風で織るタオル」です。

05.
現在の社名になるまで

マスコミに「風で織るタオル」が取り上げられ、池内タオルが一躍有名となった矢先、主要タオル問屋の倒産により、経営が悪化してしまいます。2003年、民事再生を決意。その際に提出した再生計画に、OEMから脱却し、自社ブランド製品を販売するという経営方針を打ち立てました。また、全国紙にこの様子が取り上げられたことから、全国各地の池内ファンから、手紙や電話などでメッセージが寄せられ、池内社長を奮起させました。そこから池内タオルはオーガニック商品に磨きをかけ、国内外でその認知度を広げていきました。そして、創業60年を過ぎた2014年に全製品がオーガニックの会社とし、社名を「IKEUCHI ORGANIC」に変更し、「最大限の安全と最小限の環境負荷でテキスタイルをつくる」という企業理念をより確固たるものとしたのです。

KYOTO STORE 益田店長

KYOTO STORE 益田店長

06.
質疑応答

Q:現在のブランドは人との出会いによって生まれたということでしょうか。

池内社長:この子達(商品)が会社に必要な人たちを続々と連れてくるのですよ。これからはタオル以外にベビー服やネクタイ、赤ちゃん用の食器なども視野に入れています。

Q:今回1000年を紡ぐ企業に認定されたが、京都に対して何か思うことはありますか。

池内社長:京都は田舎者には敷居が高いですよね。KYOTO STOREの場所を選ぶときも大変苦労しました。そんな中、不思議なことに大室先生の紹介で「Release;」を通じて出会った子に物件を薦めてもらい、結局ここ(KYOTO STORE)になりました。これが無ければ神戸に店を出していたかもしれない。また、店長の益田さんが京都出身ということも凄く良かったです。

大室所長:この例を見ても、色んな偶然が重なり合いながらビジネスが展開されている事が非常に多いです。また、自分がこうしたい!と手を上げることでそれを支える人が次々と現れていく、その連鎖が凄く素敵だなと思いますね。

池内社長:この7月ぐらいにはオーガニック960という現在考えられる最高峰のタオルが出ます。

大室所長:そのタオルについて進化形と言われていましたが、その概念はロジカルなものなのか、それとも感覚のものなのでしょうか?

池内社長:感覚をロジカルに。今年の1月に入院したころ、ペットボトルの臭いが気になるぐらい感覚が研ぎ澄まされていました。その中で改良を重ねたのが、先ほど紹介したオーガニック960です。

IMG_7292

07.
このトークセッションを終えて感じた事

IKEUCHI ORGANICの歴史を見ると、一見悪いと思った出来事が長い期間で見れば、良い方向に向かう為の重要な出来事になることがあり、その逆もありました。その状況の中で重要なのは、如何なる状況でも自分の持つ理念に愚直である事であり、それがIKEUCHI ORGANICの特徴である人を惹きつけてやまない商品作りに表れていると感じました。

また、企業理念である「最大限の安全と最小限の環境負荷」は時代の流れの中で当たり前となりつつあります。1992年に開催された国連地球サミットを皮切りに、大量購入大量消費から持続可能性な社会への実現に関心が高まっています。自動車の排ガス規制や原発問題が以前よりもメディアで取り上げられるようになったのは、その表れではないでしょうか。
同社の製品が多くのカスタマーに受け入れられていることからも、消費者の志向がモノ自体ではなく、環境に考慮した製造過程や経営理念といった商品に込められている物語に目を向けられることが見て取れます。それを体現しているIKEUCHI ORGANICをはじめ、「1000年を紡ぐ企業」を受賞された企業はさらに素敵な企業になっていくのではないでしょうか。

新屋 怜央(しんや れお)

新屋 怜央(しんや れお)

1996年生まれ、福井県出身。京都産業大学 経営学部 ソーシャル・マネジメント学科2回生(2016年現在)
大学ではソーシャル・イノベーションを学ぶ傍ら、京都で行われているアクティブ・ラーニング・プログラム「Release;」などの課外活動にも取り組んでいる。関心軸は、 「ソーシャル・イノベーション、システム思考、コミュニタリアニズム」。