自社の常識は、他社にとっては“非常識”かもしれない。

この1、2年で瞬く間に社会に浸透し、様々な受け止め方をされるようになった「働き方改革」。その実践の場からは、メンバーの立場や会社の状況によって多岐に渡る悩みや課題が聞こえてきます。自社の働き方に向き合う6社の経営者・従業員にお集まりいただき、合同セッションを行いました。

秋の日差しが心地よい10月最後の月曜日。この日の講師は、SILKの創設メンバーであり、現在は長野県立大学ソーシャルイノベーション創出センターでチーフ・キュレーターを務める秋葉 芳江さん。秋葉さんに昨年お話しいただいたイベント記事「生きるように働く。80歳まで働き続けるには」を読んでくださった方もいらっしゃるかと思います。

「1年前の情報ですら、ものによっては『古い』と言われてしまう時代です」とおっしゃる秋葉さん。参加企業6社が抱える課題を受けて、先進的な取組や挑戦のヒントをたくさん教えてくださいました。

常識を疑うことから始めよう

秋葉: 既にご存知の方も多いと思いますが、まずは日本の人口減少、特に生産年齢人口の減少について考えるべきことをお伝えします。生産年齢人口がピークに達した1995(平成7)年から2020(令和2)年にかけての25年間で、その数は85%に減ってしまいます。人口全体に対する生産年齢人口の割合がどんどん減っているので、生産性を上げていかないと子どもや高齢者の生活を支えることができません。そして、人の採用が今よりもさらに難しくなっていきます。私がいる長野県では、黒字にも関わらず人手が足りなくて倒産する企業が実際に出てきています。

序盤からショッキングな数字に直面し、参加者の方々の表情からは緊張感が伝わってきます。イベントの冒頭、参加企業の皆さんから今抱えている課題として

・働き方の改善が進むことで、マネージャーの負担が増えたり社員の中に不公平感が生まれたりと新たな課題が出てきた。

・年齢や役職によって、働き方改革への意識に温度差がある。

・社内のコミュニケーションを増やしたいけれど、なかなか上手くいかない。

などが挙げられました。秋葉さんのお話を通して、また新たな課題意識を持たれた方も多いのではないかと思います。

秋葉: もう1つデータをお見せします。これはOECD(経済協力開発機構)が出している加盟国の平均賃金のグラフです。日本はどの色だと思いますか?残念ながら、日本は上位半分にも入れません。他の国が賃金を上げていく中、ここ数年間で日本の平均賃金は下がっています。

私が教えている長野県立大学の学生たちの中には、高校時代から当たり前のように海外に行っている人もいます。彼らはもう、日本で働かないといけないとは思っていません。感覚的には、私が日々接する大学生の半分くらいは10年後に海外で働くことを選択肢に入れています。

参考:OECDデータ 平均賃金
https://data.oecd.org/earnwage/average-wages.htm

一人ひとりが「社会に対してどれだけ付加価値を生んでいるか」を問われる時代

秋葉: 今、働き方は大きく変わってきています。日本マイクロソフトは、今年8月に全社員が勤務日数を週4日にするというチャレンジをしました。同社によると、業務量は変えず、給与も下がりません。マイクロソフトは、これまでも生産性の向上を徹底してきた会社です。たとえば、ミーティングに無駄な時間をかけないようにするルールがあり、時には立って会議をすることもあるそうです。週勤4日制の導入時には、さらに、会議は「30分で設定」「5名以内」というトライアルを行いました。参加者は事前に資料を読み、自分の意見や部署としての考えをまとめ、ミーティングの場では意思決定のみを行います。

今の20代にとっては、リモートワークは当たり前です。そして、彼らは「仕事だから嫌なことでも我慢してやらないといけない」なんて考えません。プライベートと仕事を分けて考えるのではなく、個人としてのあり方と仕事をつなげて働くことを望んでいます。上の世代とは価値観や感覚が大きく異なるので、同じ20代が経営する企業で働きたがる人が増えています。社歴の長い会社ほど、若い人を採るのがたいへんになっていくかもしれません。

参考:マイクロソフト企業サイトより
「週勤4日&週休3日」を柱とする自社実践プロジェクト「ワークライフチョイスチャレンジ2019夏」を開始
https://news.microsoft.com/ja-jp/2019/07/23/190723…
「週勤 4 日 & 週休 3 日」を柱とする自社実践プロジェクト「ワークライフチョイス チャレンジ 2019 夏」の 効果測定結果を公開
https://news.microsoft.com/ja-jp/2019/10/31/191031…

秋葉: 働き方を考える上で重要なのが、「自分の収入は、誰からもらっているのか」という問いです。会社に勤めていると毎月自動的に給与が振り込まれるので、自分が価値を生み出した結果として給与が支払われるという意識が決定的に足りていない人がたくさんいます。総務や事務など社外との接点がない仕事の場合は、自社の営業社員や店舗など、前線に立っている人に対してどれだけ貢献できているかを指標にするといいと思います。

終身雇用の時代が終わり、一人ひとりが「社会に対してどれだけ付加価値を生んでいるか」を問われるようになっています。しかも、今のビジネスモデルが10年後通用するかというと、答えはNOだと思います。いかに生産性を上げて価値を生むかを、皆さん一人ひとりが考えていかなくてはいけません。

共感し合える人たちと、楽しみながら取り組むのが一番です

後半は、参加者の皆さんからの質問や悩みに秋葉さんが答えてくださいました。特にこちらの質問には、他のテーブルからも大きく頷く姿が見受けられました。

参加者: 会社の中には、変えよう、良くしていこうという取組に対して「そんなん無理やわ」という人がたくさんいて、話をしても平行線になってしまいます。そういう人たちをどうやって巻き込んでいけばいいでしょうか。

秋葉: ネガティブな捉え方ばかりする人たちに真っ向からぶつかっていくと疲れてしまいますよね。少人数でいいので、共感してくれる人たちと楽しんじゃうのが一番です。「なんかあの人たち最近楽しそうやな」と、ネガティブな人たちも気になってしまうような空気を作っていくんです。向こうから歩み寄ってきたら、その時は説教せずに歓迎してあげてください。相手にエネルギーを向けるよりも、自分たちが盛り上がることにエネルギーを使う方がいいですよ。

皆さんの質問に、次から次へと力強い答えをくださる秋葉さん。お話全体を通して、前半のお話の中で画面に映し出された3つの対比が頭に浮かびました。

自社の常識─他社の非常識
自分の常識─若手の非常識
日本の常識─世界の非常識

年齢や仕事内容、立場、出身地の違う多様な人たちが集まってチームとして仕事をする上で、「常識を疑う」ことの大切さを改めて感じた1日。テーブルのキュレーターを務めた田中 暖子さんが共有してくれたグラフィックレコーディングもぜひご覧ください。

▲pdfが開きます

最後に皆さんが発表してくださった、明日から実践したいことをいくつかご紹介します。

「会社のみんながどんなことを考えているのかに耳を傾けたい」

「私は総務部にいるので、スタッフのモチベーションが上がる人事制度の提案をしようと思います」

「社内のコミュニケーションの場を増やす仕掛け作りを考えます」

「仕事以外の時間でも、楽しいことをたくさん見つけたい」

「他部署の人とオンライン飲み会をやってみようと思います」

参加してくださった6社の中に今後どのような変化が起こっていくの、私たちもとても楽しみにしています。秋葉さん、参加者の皆さん、ありがとうございました!この記事の内容にご興味をお持ちいただいた方は、2018年の記事「生きるように働く。80歳まで働き続けるには」冊子『働きたくなる地域企業のつくりかた』も合わせてお読みいただければと思います。

写真・文:柴田明(SILK)


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