[社会・地域貢献部門]
2023年度認定
-
経営理念
「人に喜んでもらえるものを」「人を幸せにできるものを」
物作りとは「人に喜んでもらえるものを」「人を幸せにできるものを」作ることが大事である。
茶道の教えに「一期一会」という言葉がある。
出会いは一生に一度のものと思い、相手に対し心を込めてお茶をたてる、おもてなしするようにとの教えである。
物作りにも通ずるものがあり、この心を大切にしている。 -
社会課題の解決
次に続く若い人たちが持続的によりよいモノづくりをできる土壌を整える
伝統工芸は手仕事で、技術習得に時間や経費もかかり、大量生産が出来ず利益が得にくい。それなのに、安価な工場製品におされ付加価値を見てもらう事が少なく、賃金・社会福祉の面でも他の職業より手厚くない。
近年、材料費の高騰で商品に転嫁しようとしても、問屋など中間業者の弱体化で対応出来ない状況にある。
業界全体が衰退しているため、陶工高等技術専門校(陶芸の職業訓練校)を出ても京都での就職先が少なかったり、本業だけでは生活を維持できず、副業をしながら京焼・清水焼の文化や技術を引き継ぎたいという想いだけで続けている事業者もいる。
「陶器は売れない」「新しいものは作れない」そんな常識を変えていかなければ伝統工芸の次の担い手である若い人たちは益々苦しい状況に立たされる。これまでになかった切り口で商品や販路を生み出すことで、業界全体の活性化を図り、次に続く若い人たちが持続的によりよいモノづくりをできる土壌を整える必要がある。
── どのような取組をしていますか?
●海外市場での陶器販売
国内市場が縮小しているため、新たな販路として海外への販売は重要である。しかし組合など団体を通じた海外での見本市などは、基本的に単発で終わってしまい、継続的な売上にはつながらない。また、個々の事業者単位では言葉や関税などの問題や、経費もかかることから財務的に安定している必要があるなど、ハードルが高く自社の力だけで海外進出できる事業者は限られている。山川製陶所も同様で、従業員も1名のみでノウハウがあるわけではないが、ジェトロや金融機関の支援を受けながら挑戦している。
お客様が要望するものを聞き、喜んでもらえるものを創意工夫し製作するという、今まで当たり前にお客様に寄り添った物作りをやってきたことが、自分の強みになっていることに気づかされた。
このことが、自分のスタンスであり、強みにもなっているので、海外でも、アピールしていく。
高い壁のように思われている海外展開だが、小規模事業者でも可能であるということを自社の経験を持って示すことで、他の事業者も後に続くことができると考えており、そのためのノウハウを蓄積して、将来的には同業他社でも同様のことができるように支援したいと考えている。
●想久の石珠(遺骨加工サービス)
ペットは、以前は番犬やねずみ捕り等、実用面からの飼育から、近年では癒しとして役割に大きく変化しており、家族同然の扱いをされる方も多くなっている。多くの方が人間よりも寿命が短いペットとの死別を経験し、悲嘆し、精神状態が落ち込むいわゆる「ペットロス」が社会問題化しており、近年、ペットも家族同様で人と同じように葬りたいと希望される方が増えてきている。
しかし、人と一緒のお墓に入れない、ペット霊園が近くにない、庭がないなどの多くの問題がある。ペットのほぼ遺骨灰のみで成形した「想久の石珠」により、お客様がペットを手元で供養できるようにすることで、お客様のペットを失った悲しみや喪失感を和らげることに取り組んでいる。お守りのように携帯したり、ペットがいつもいた場所に飾ったりと、家族でそれぞれの想いの石珠を持つこともこともできる。
●後進育成のため陶訓からのキャリア研修を受け入れ、若い人たちが意欲を持って働けるよう指導している。
── どのような成果が生まれていますか?
・「想久の石珠」は何年もかけた研究により可能となった特許技術であり、長年伝統産業に従事してきたからこそできた新しいサービスである。発明協会における講演発表など広報活動を通じて、昔からの技術を転用した新しい商品やサービスの展開の仕方を発信し、今後業界を支える次の世代にユニークな発想が伝播することで、業界全体の発展につながればと考えている。
また、「想久の石珠」は全国から問い合わせをいただいており、ご来店いただくことで陶器や京都に関心を持つきっかけにもなっている。
・京都は伝統工芸の街であるが、業界自体の衰退を課題としている伝統産業は多い。「想久の石珠」を始めたことから、清水焼以外にも仏具や織物事業者から相談を受けることが増えた。今後これが他業界とも協業のきっかけとなり、他の伝統工芸の技術でもっと喜んでもらえるものを製作していければ京都全体の発展につながっていく。
・悲しむお客様に寄り添ったサービスのため、「触れることが出来ることが、楽しみとなりました。形を変えてまた一緒に過ごせます」「涙が溢れ出てあらゆるものに感謝したい気持ちになりました。ありがとうございました」などのお言葉をいただき、職人としてのモチベーション維持にもつながっている。 -
従業員・顧客・取引先への配慮
ペットの遺骨を陶器のように固め石珠(たま)にする、世界初の技術で特許を取得
【ステークホルダーとの対話】
当事業所は、長年、茶道具中心に陶器製造を行ってきており、代表は、京焼・清水焼の伝統工芸士である。
見込み生産ではなく、お客様の声やニーズに寄り添ったサービスを心掛けて製作している。
それにより、社会の変化に合わせたサービスを新しく生み出している。
最近、新規事業として遺骨加工サービス想久の石珠を始めた。
*陶器事業
・茶道具において、先駆者的な生活様式の変化に応じた商品を取り入れ、クリスマスのサンタ、日本昔話シリーズ、桜の花びら型の茶盌など多くのヒット商品を生み出した。令和になった時には、皇族関係のお印の茶盌を作り800個以上の大ヒット作品となった。
・50周年の記念茶会の数茶盌依頼を受け、一からデザインし製作。好評のため100個の予定が1000個を超える注文となった。
・オリジナル茶盌を依頼される。年中使えて今までにない物をと、五色のパステル調の松竹梅の茶盌を考えた。
・高級肉料理店の社長が京都に来られた際、お茶道具である陶器の話以外に茶会席の話になり、なぜ肉会席はないのだろうという話になった。そこから、店の4階フロアーを茶席風にし肉会席を提供することになり、開店する際の器の製作と店の飾りつけのため準備を手伝った。
・某会社の100周年の記念品も提案し依頼を受けた。
・京菓子屋の代変わりの際、お菓子を飾る記念の器のデザインを一から考え製作した。
*想久の石珠
近年、ペットの供養で悩む人々が多い事を知り、陶器の技術と経験を生かし、ペットの遺骨を陶器のように固め石珠にする世界初の技術で特許を取得。想久の石珠としてサービスを始めた。
家族同然のペットを手厚く供養したいというニーズは年々増加しているが、「近くにペット霊園がない」「庭などがなく埋葬できない」などの問題や、遺骨を手元に置いておきたいという方も多くいらっしゃる。
想久の石珠は、遺骨灰の含有量が10割近く不純物はほとんどない。ペットの遺骨を、丸や楕円・似せた形など、お客様の想うそれぞれの形にできる。
ご来店いただき、詳しい話しをして、想いをお聞きし、なるべく近い形になるよう製作する。遠方の方には、メールや電話などで相談を重ね、ご遺骨はこちらから送った梱包セットでご郵送いただく。
絵付したり彩色したりもでき、製作する石珠を提案していく。
お守りのように携帯したり、ペットがいつもいた場所に飾ったりと、家族でそれぞれの想いの石珠を持つこともこともできる。
https://soukunotama.com/
【差別の禁止】
性別・年齢・障がい・国籍を考えたことはなく、職人さんのおかげで商品が出来ていることに感謝し、使っているという考えではなく自分が使われているという思いで、やってきている。
【労働安全衛生の徹底】
ホコリの出やすいロクロ場は1階、絵を描く絵付場は2階と分けて作業している。
ご遺骨には稀に人体に有害な六価クロムが含まれていることがあり、まずは六価クロム検査を行っている。
あった場合は、六価クロムを除去し、安全な状態にしてから作業を行っている。
【働きやすい労働環境の整備】
手仕事であるため時間外労働はかなり疲れるので、基本、急ぎの仕事があっても従業員には無理させることはしていない。私自身は、土日に製作し、月曜日には陶器の素地が上がって絵付ができる状態にするようにし、時間内に気持ちよく仕事できるようにしている。
休みに関しても、土曜日出て月曜日休みにするなど従業員の希望に添えるよう臨機応変に対応している。
社会福祉に関しては、個人事業と規模が小さくまだまだではあるが、新規事業の想久の石珠が軌道に乗り成功すれば、付加価値が上がり、従業員にもっといい環境の整備ができる。
賃金に関しても、伝統産業従業員の低賃金を打破し、新しい夢のある職場にしていく。
【人材育成】
陶器の技術は、学校を出ただけで上達するわけではない。失敗した時に、原因などを考えるよう促し、改善を図り、技術の向上に繋げていく。見て覚えることが、とても大事な職業であり、一人前になるにはある程度の時間が必要となることを理解し、余裕を持って人材育成に取り組んでいる。
また、工業試験所、陶工訓練大学校などの教育訓練・課題授業を受けられるようにし、スキルアップの支援をしている。 -
地域社会への配慮
京焼清水焼の認知向上に向けて
【地産地消の推進】
陶器原料である土は100%京都の原料屋さんから調達している。他の原料についてもほぼ京都の会社から仕入れている。京都陶磁器連合会、京都青窯会、伝統工芸士会に所属しており、協力しながら、盛り上げている。
京焼清水焼の認知向上に向けては、山川製陶所のホームページを自ら作成するよう(息子を中心に)専門家派遣(発明協会・保証協会・よろず支援)の支援をうけ進めている。
また、ジェトロの海外展開支援を受けており、現在、ニューヨーク在中の専門家とジェトロの担当者との三者で海外進出するための方法を考えている。
まずは、英語のホームページの作成をし、京焼・清水焼の伝統工芸士、アーティストとして世界に発信し、ブランドを構築し、京焼・清水焼の発展に繋がるようにする。
そして将来、想久の石珠も、アーティストがこんな事を考え日本でやっていることを発信していく予定である。想久の石珠は、専門家派遣を活用し、昨年12月プレスリリースをした。
その後、京都新聞に掲載され、KBS京都の京ビズでも紹介された。
今年8月にはPRストーリーを発信し、共同通信社の取材を受け、神戸新聞に掲載。
地方のネットニュースにも掲載されたので、認知度が上がってきている。
そのおかげで、依頼も増えてきている。
想久の石珠も、お客様の声や新聞に掲載されたことをホームページでリアルタイムに発信できるよう、中央会のデジタル支援をうけリニューアルを進めている。
京都市のふるさと納税に選定された。
【地域への参画】
地元小学校が小中一貫校になる前は、毎年、陶器製作の授業をボランティアで受けていた。
仕事場見学も受けていて、地元小学生が見学に来ていた。
授業に関しては、ある年、各小学校の先生方が見学に来られ、それからは伝統工芸の授業を受け入れていく学校が増えたように思われる。
また、以前、仕事館があった時は、伝統工芸士として月に一度ろくろ実演をし、絵付の指導も行っていた。
東京スクエアビルでの実演も行った。
また、京都の呉服屋の東京や九州での着物展示会にて、京焼・清水焼の陶芸教室を行った。 -
環境(未来の社会)への配慮
陶器を作る技術によって新しい時代・文化を作り、伝統工芸の発展に繋げていく
【温暖化対策・2050年】
LED電球の替えた。窯のニクロム線を張り替え、熱伝導が良くなることから電気代を削減している。
【廃棄等の適正な管理、再利用、再資源化】
陶器製作において削りくずが出るが、白土、赤土と成形場所を変えて同じ土を管理し原料屋に再生してもらっている。
【文化の継承・発展】
伝統産業茶道陶器を継承しているが、陶器の技術を使った新しい事業・想久の石珠(ペットの遺骨加工事業)に発展させた。京都という地盤は新しい物を考える土地柄であり伝統を守るだけでなく、陶器を作る技術によって新しい時代・文化を作り、伝統工芸の発展に繋げていく。若い人達が希望を持てる工芸とし、古き良きものは継承して、新しい物をどんどん生み出していけるようにしていく。
【情報開示】
プレスリリースを年1回以上発信して、想久の石珠の内容を知らせ、口コミを広げる努力をしている。
ペットロスの悲しみから新しい一歩を踏み出してもらえるように丁寧に対応し、陶器を製作できることから、遺骨加工だけでなく石珠を入れておける器を提供している。
ホームページにても、情報を開示している。
【その他】
陶器は使用すると汚れてしまうが、陶器製造してる技術があれば、また新しい綺麗な物に蘇らせることも出来る。