2023年に「CULTURE-PRENEURS」という言葉が生まれてから、3年が経とうとしています。毎年30名のカルチャープレナーが選出され、Forbes JAPANと京都市が主催する「CULTURE-PRENEURS AWARD」にて表彰が行われてきました。
カルチャープレナー(文化起業家)とは……
文化やクリエイティブ領域の活動で新しいビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようとする人たちを表す、新しい概念。
この3年の間にどんなことが起こり、これからどんなことが期待されているのか。
京都で活動するカルチャープレナー4名と、Forbes JAPAN・京都市の職員などが集まり、未来に向けての意見交換会を行いました。

“今、未来の新しい文化をつくろうとしている人たち”
この日の会場は、老舗の漆屋でありながらサーフボードや自転車に漆を施し、新しいカルチャーを生み出している株式会社堤淺吉漆店の本社。「これからの1000年を紡ぐ企業認定」も2021年に取得されています。
意見交換を始める前に、まずは皆で会社見学をすることに。四代目の堤 卓也さんが、漆の精製や調合を行う工房と2024年にオープンしたショップを案内してくださいました。


漆の原料は、ウルシの木から採れる樹液。15年かけて育った1本の木から、たった200gほどしか採れないという貴重な天然素材です。何ヶ月もかけて少しずつ、職人の手作業で樹液を集めます。
産地や個体によって、粘り気や色が異なる漆。それぞれの個性を活かしながら、扱う人の好みや作るものに合わせてオーダーメイドで精製していくそうです。
「僕は、練ってるうちに漆が好きになっちゃったんです。どんどん変わっていくのがおもしろくて」と楽しそうに話す堤さん。その奥深さに、参加者からの質問が止まりません。


工房で堤さんのお話を伺った後に、改めて3つの選出基準を眺めると、カルチャープレナーが担う役割の大切さ、かけがえのなさを、肌感覚として受け取れたように感じました。
カルチャープレナー選出基準
1. 文化資産や地域資源を掘り起こし、新しい価値やエコシステムをつくろうとしている人たち
2. 日本文化の価値を世界に伝えていくことができる新たなリーダーシップをもつ人たち
3. 今、未来の新しい文化をつくろうとしている人たち
それぞれの受賞者の歩みをシェアしながら
「1年目は、選ばれた方に『あなたがカルチャープレナーです』と伝えに行く時、かなり緊張しましたね。どんな反応が返ってくるかがわからなくて」
と語るのは、京都市文化芸術企画課の覚前 元英さん。受賞を伝えると「しっくり来ました」「自分たちがやっていることが上手くハマる枠を作っていただけた」と歓迎され、安心したそうです。

当時は「カルチャープレナーって何ですか?」とあちこちで聞かれ、説明を繰り返す日々が続きました。しかし今では、カルチャープレナーを支援する一般社団法人が設立されたり、商工会議所が文化起業家をテーマにイベントを開催したりと、ビジネス界に新しい概念が定着し始めています。また、教育や投資の分野でも活動の事例が出てきました。
そんな中、受賞者の方々にはどんな変化があったのでしょうか。
着物と帯のアップサイクルブランド「Relier81」を運営する田尻 大智さんは、事業を長く続けていくためにM&Aによる事業譲渡を決断しました。
「安定した資本のもとで、事業推進責任者としてチャレンジできる環境なので、良い選択ができたと思います。方向性も定まってきましたが、すり合わせが必要な部分もあります。1年が経って、少しずつお互い慣れてきました」


一方で、マイクロファクトリー型食品加工施設「FUFU」のオープンという大きな決断をされたのが、株式会社めいの扇沢 友樹さん。京都中央卸売市場がある梅小路エリアで、廃業したかまぼこ工場をリノベーションして入居事業者を募集。大手6社がこれは無理だと見送った物件でしたが、購入を即決したそうです。
「以前から、このエリアに小規模な事業を始められるフードファクトリーがあるべきだと考えていて。物件を待っていたんです。1週間で財務や企画書などを全てそろえて、取得しました」


伝統工芸品の販売支援をしている株式会社水玄京の角居 元成さんは、西陣織をリデザインする「N’s1182」の前田 雄亮さんと大阪・関西万博でコラボレーション。運営スタッフとしてファッションショーを支えました。
「前田くんは僕より若くて、20代半ばの西陣織の職人なんです。ご縁があって読売新聞主催の『饗宴!匠が演じる日本美の世界』という企画を担当させていただけることになったので、せっかくなら前田くんと一緒にと思って、ファッションショーをやりました」


「カルチャープレナー」という言葉ができたことで、様々な動きが生まれ、可視化され、お互いのアクションに共鳴する事業者が出会う。
扱うものや事業の進め方はそれぞれ違っても、文化資産や地域資源への敬意を持つもの同士が集い、ゆるやかにコミュニティが形成されています。各受賞者の“今”を共有することで、参加者一人ひとりにとっての「カルチャープレナー」という概念が、より立体的に形作られていくようでした。
カルチャープレナーの聖地とは
後半は、京都市がどんな状態になったらカルチャープレナーの「聖地」だと言えるのか、聖地化の実現のためにどんなアプローチができるのか、をグループに分かれて話し合います。

上の図は、京都市の都市経営戦略室が、2023年にカルチャープレナーの推進を始めるにあたってまとめた構想です。日本のカルチャープレナーがグローバルに活躍する未来を目指していく世界観が描かれています。
アワードは、リサーチとフラッグシップの役割を持ち、その後の展開として世間への浸透、アクセラレーション(海外展開)などの広がりを見据えています。また、ESG経営や金融機関との紐付け、ソーシャルビジネスとの親和性も捉えていました。
「行政だけで考えた事業は、“絵に描いた餅”になってしまいがち。皆さんと一緒に、意味のある制度設計をしていきたい」という覚前さんからの呼びかけで、ディスカッションが始まります。

「カルチャープレナーは複合競技。アートや芸術の文脈に加え、ファイナンスの知見も求められますよね。大学教育ではその二つは完全に分かれてしまっているので、カリキュラムを混ぜていけるといいのでは」
「シンボリックな建物や通りがあると、わかりやすいのかな」
「コミュニティがある程度できてきたので、次は他のコミュニティとつなぐことが大事だと思いました。たとえば、学生が集まるようなところとか」

「海外の姉妹都市とのつながりを作ってもらえるとありがたいです」
「これから文化的な事業を立ち上げる人に、始めるなら京都でやるのがいいんじゃないか、と思ってもらえるには?」
「京都は市の7割が山林ですし、自然と向き合って保全する姿勢が見えると、自治体としてかっこいいと思う」

さまざまな意見が飛び交い、あっという間に3時間が経過。リスペクトと共感が溢れるあたたかい場になりました。
交流会「CBX MeetUp in KANSAI」 が開催
産業支援機関でも、カルチャープレナーをテーマにしたイベントが広がっています。また、2024年11月には一般社団法人 日本カルチュアプレナー協会が誕生し、カルチャープレナーが集うイベントを定期的に開催。カルチャープレナーと企業との関わりを拡げる展開が進んでいます。
2026年1月20日には、カルチャープレナーと企業が一堂に会し、新たな文化創造に向けた交流会「CBX MeetUp in KANSAI」が開催されました。

【主催】KANSAI MeetUp実行委員会(関西広域連合、一般社団法人安寧社会共創イニシアチブ、一般社団法人日本カルチュアプレナー協会、京都大学医学研究科) 【共催】公益社団法人 関西経済連合会 【協力】大阪ガス株式会社、三井住友信託銀行株式会社、株式会社わかさ生活
京都市では今後、裾野の拡大や起業支援、事業成長のサポート、海外進出の後押しなど、複数の側面からプロジェクトをつくっていきます。
独自の時間軸や価値基準で、文化と経済を両立させるカルチャープレナーたち。文化に興味がある方も、自分には縁遠い話だと感じている方も、ぜひ機会があれば彼らの取組に触れてみていただければと思います。
Forbes JAPANさんによる「CULTURE-PRENEURS 30 2025」のwebサイトと、昨年度の交流会の様子も、ぜひご覧ください!
主催:京都市 文化市民局 文化芸術都市推進室
企画運営:株式会社よい根
取材・文:柴田明(SILK)



