私は人生をサボらず生きる。自分を変える旅と、仕事へのまなざし|新コーディネーター 田中成美インタビュー【前編】

2025年4月、SILKのイノベーション・コーディネーターに株式会社アスタネの田中 成美 さん(通称:なる)が就任しました!
これまでも色々な場でSILKと関わってくれていた、頼もしい新メンバーです。持ち前のフットワークの軽さと、京都では珍しいド直球のコミュニケーション力を活かして、さっそく新しい動きをどんどんつくってくれています。
「マーケティング」「ものづくり」「人材育成」などの軸で活動する彼女にとって、働くことはどんな意味を持つのでしょうか。今回は、大学を休学して東京から京都にやってきた河南 碧衣さんに、インタビューしてもらいました。

「人生をサボってたな」と感じたことが転機になった
—なるさんは、SILKでどんなことをやっていきたいと思っていますか?
今の時点でやりたいなと思っていることは具体的な話でいうと、大きく3つあります。
- ものづくり企業の新しい挑戦を応援すること。
- 色々な企業の社員が一緒になって学び合える場をつくること。
- そして、京都らしい採用のあり方を考えていくこと。
これらの活動を通して、京都で何かを頑張りたいと思っている人や企業の機会と選択肢を増やしたいと思っています。
―素敵です。それぞれ深掘りしていきたいのですが、まずはそんななるさんの仕事観がどんなふうに始まったかを伺ってもいいですか?
私は大学生くらいまでずっと「働くことってしんどいこと」だと思ってきたんです。
自営業で働く親を見て育って、大変な思いをして働かないとお金って稼げないものなんだと、幼いながらに感じていて。働くことを、ネガティブに捉えていました。
大学生の頃までは教師を目指していたんですが、それも「性別に左右されることなく、働いてお金を稼いで自立して生きていきたい」と思ったことが大きな理由だったと思います。当時はまだまだ「女の子は~」と言われて可能性を制限される時代だったし、家の経済状況も重なって、幼いながら人生の選択の不自由さを意識した子ども時代でした。
ーでも、いまのなるさんは「しんどい」ばかりではなく見えます。
そうですね。
今は私自身も働くことをすごく楽しんでいるし、面白いと思っています。それはきっと、大学時代以降の色々な経験や人との出会いの中で、私の中の価値観が変わったからだと思います。
ーそのお話、聞きたいです。なるさんはどんな大学生だったんですか?
大学入学当初は、まじめに勉強せず、大学生活を過ごしていました。そんな日々を続けていたとき、ふと「あんなに頑張って勉強をして大学に入ったのに、私何してるんやろ」と思うようになりました。自分は変わらなきゃいけない。じゃあそのきっかけを作るために海外へ行ってみよう、と思い立って。「海外 格安ツアー 学生」で検索して一番上に出てきたツアーでインドに行きました。
― インドへ?!思い立ちましたね…どんな体験だったんでしょうか。
ツアー自体は現地で働く日本人の職業観に触れることをテーマにしたもので、約10日間インドに滞在しました。
今でも鮮明に思い出せるのは、有名な観光地ではなく、町の中で見た何気ない風景でした。道を歩いていると、ふいに話しかけられて物乞いをされたり、学校に通っているはずの年頃の子どもたちが働いている姿を目にしたりーーそんな、日本では見られない光景がインドでは「日常」としてありました。これまで当たり前のものだと思っていた暮らしや空気が、別の場所ではまったく異なる形をしている。その現実に、強い衝撃を受けたんです。
その時、「あ、私人生をサボってたな」と思ったんです。自分の家が経済的に裕福ではなかった劣等感を抱いて、ふてくされていたのかもしれません。日本で生活できるだけで恵まれているし、大学も行かせてもらえているのに、全然有意義に使えていない自分はあかんな、と。自分のやりたいことをやろう、学業もさぼらずにちゃんと両立しよう、と心に決めて帰国しました。

世の中でこんなに面白そうに働いている大人っているんや。
―自分のやりたいことに向き合い始めたなるさんは、どんな風に変化したんですか?
帰国後は大学にも真面目に通うようになって、ずっとやりたいと思っていたカフェでのアルバイトや学生団体の活動を始めました。そんなときに「傍楽」という場所を紹介してもらったことが人生の大きな転機になりました。
※傍楽(はたらく):2014年に”家と学校以外の第三の居場所”をコンセプトに学生や社会人が集まる場として京都市中京区の町家にオープンした。現在は、子育てに悩むお母さんのための居場所としてお話し会、勉強会、お楽しみ会などのイベントを多数開催している。充填機メーカーの株式会社ナオミの元代表・駒井亨衣氏が立ち上げた。
ある時傍楽で、当時定期的に開かれていた学生と社会人が混ざって対話するイベントに参加したんです。サラリーマン、経営者、主婦、農家など、多様な肩書を持つ社会人とお話をしました。そこで、全員が口をそろえて働くことを「しんどいこともあるけど楽しい」って言ったんです。私はそれが信じられなかった。ずっと、働くことはしんどいだけだと思っていたから。
話を聞いていくうちに、組織で何かをすること、つまり人と力を合わせて物事に取り組むことに喜びや楽しみを見出してる人が多いことが分かりました。会社組織って面白そうだなと思い始めたのはこの時です。
ーもともとは、教師を目指されていましたよね。
そうです。だから一般就職は考えていなかったし、就活もしていませんでした。
でもちょうど同じ時期だったと思うのですが、アルバイトで働いていた塾で生徒に「先生は勉強が好きじゃない子の気持ちが分からないでしょ」って言われたんです。私はもともと勉強することが好きで、親に宿題しなさいとか勉強しなさいと言われたことがほとんどないので「・・・確かに、分からない」と。そのとき、「勉強をしたいと思っていない生徒」の気持ちが分からない自分がいることに気づいたんです。学校には勉強が嫌いな子も多くいる中で、私は勉強の楽しさを教えられる教師になれるのか?と、自信が無くなってしまったんです。
傍楽で感じた期待感もあって、「働く選択肢って教師以外にもあるのかも」と思い、就活を始めることにしました。

「…なんかちがう」が続いた就活。その先に出会えた、嘘のない会社。
―就活を始めてみて、どうでしたか?
全く上手くいきませんでした。
ずっと教師を目指していたので、業界・業種を選ぼうにも、どこが良いというのも分からなかった。しょうがなく、名前を知っている大手企業を片っ端から受けていきました。そうしたら、グループディスカッションで全部落ちたんです。納得がいかなくて、面識のある人事の方に後で聞いてみたら「君は意思が強く、協調性が低いように感じるから、大手よりもベンチャーの方が向いていると思う」って。でもそのときにはベンチャーの就活も終わってしまっていて、困った末に傍楽に相談に行ったんです。
そうしたら傍楽の代表である駒井さんに「日本にある企業の99.7%は中小企業やで。田中さんは0.3%の大企業には落ちたかもしれないけど、99.7%の中小企業の可能性もあるんじゃない?」と、言われたんです。重ねて「会社見学に行けるのは良い会社。普段のありのままの姿をオープンに見せられるんやから。業種とか職種で選べないなら、会社見学に行ける会社に行ってみたら?」と言っていただいて。その後、京都を中心に20社ほど会社見学に行きました。
でも、新卒の枠が少なかったり、募集時期が遅かったりとなかなか順調にはいかず……そんな時に駒井さんから「とりあえず私の会社にインターンで来てみるか?」と言ってもらい、株式会社ナオミで週2日働かせてもらうことになりました。働く中で、会社の風土や社長の考えていることがわかってくるじゃないですか。駒井さんが描くビジョンに共感して、「この人についていきたい!」と思ったので、自分から雇ってほしいと伝えて。初の新卒社員として入社することになりました。
ーなるさんの「就活の軸」はなんだったと思いますか。
結局、「誰と働くか」が私にとっては大事でした。前職が取り扱う製品に最初から興味があったわけではなくて、トップのビジョンに共感できるか、そこに嘘がないか、社員さんはどんな人たちか、を見たかったんです。