目の前のことを、悩みながら、つまずきながら、やっていく | ソーシャルキャリアの歩き方

「すごいことやってますね、って言われるんですけど、自分としてはそんな感覚は全くなくて。ただ目の前にあることを悩みながら、つまずきながら、やっているだけなんです」

NPO、社会課題解決、国際支援……言葉で捉えるとなんだか身構えてしまうけれど、そこに関わっている人と会って話をすると、精神的な距離がグッと縮まることってありませんか?自分と似た迷いを持っていたり、ものすごく共感できるポイントがあったり、たくさんの失敗が見えてきたり。

「ソーシャルキャリアの歩き方」と名づけた、SILKの新しいイベント企画。イベント当日の空気感を少しばかりお伝えできればと思います。

すごい人の講演を聞くという感覚ではなく、近い距離感でリアルなエピソードに触れて、その人の価値観や人間味を感じる。そんな場にしたいと願って、NPO法人 アプカス 石川 直人さん、NPO法人 次代の創造工房  高土 聡子さんをお呼びしました。

全くの素人だけど「もしかしたら、できるんじゃないか」と思っていたら……

まずは、アプカス 石川 直人さんにこれまでのキャリアをお話しいただきました。

海外青年協力隊として23歳でスリランカへ行った石川さん。もともと南米への渡航を希望していたこともあり、2年の任期を終えたら帰国するつもりで日本を離れたそうです。しかし、2004年に起こったスマトラ島沖大地震を受けて、被災者支援のために現地のNGOに残ることを決意しました。29歳の時にアプカスをNPO法人化し、北海道とスリランカを拠点に活動しています。

野良ゾウやゴミの問題など、現地で様々な課題に直面し、時には「何も変えられなかったです」「やっている支援自体が問題になっていることもある」と、率直な言葉で「支援」の難しさを伝えてくださいました。

2人目のゲスト、高土 聡子さんは、フィリピンのセブ島と東京との2拠点生活を送りながら、東日本大震災で被災した子ども達のキャリア支援を、各国の大使館と連携した海外研修を通して実施されています。

「介護業界を変えたい」という強い思いをもって社会福祉士のキャリアをスタートした高土さん。しかし、予期せぬ事態で会社は事業譲渡に。退職後、バックパッカーで40カ国を回る中で「教育で世界は変わる」と感じ、次世代育成に興味をもつようになりました。世界一周から帰国したタイミングで、東日本大震災で被災した子ども達の支援活動を行うNPO法人 次代の創造工房に参画します。以降、パートナーの起業を機に移住したセブ島でも、次世代育成を自身のライフワークに。

会社を退職した時に不安や迷いはなかったのかという質問が投げかけられると、

「楽しみでしかなかったです!不安は全くなかったです。選択肢がたくさんありますし、どうにだって生きていけるというマインドで、是非やりたいことに一歩踏み出していただければと思います」

「自分でNPO法人を立ち上げる以外にも、活動や想いに共感した団体にジョインして、その中で企画し活動するという関わり方もあります」

とおっしゃる高土さん。明るい笑顔と力強い言葉に、「確かに!」と気持ちが軽くなった方も多かったのではないでしょうか。

目の前の状況を受けて、しなやかに変化しながら歩みを進めていく。お二人のお話を聞いて、そんな印象を受けました。石川さんに、2010年から行っている指圧事業について伺うと、返ってきたのはこんな答えでした。

「現地で知り合った視覚障害者の人が『目が見えない人間は何もできないから、支援してもらうだけだよ』と言っていて。日本では鍼灸あんまで活躍している人がいますよね。僕は全くの素人だけど、もしかしたらできるんじゃないかって調べていました。そしたら指圧のプロにたまたま出会えたんです!」

一方で、現場でやりたいことと政治や社会の機運とを上手く組み合わせる戦略を練り、パズルのようにはまった時に事業が始まることもあるそう。「ソーシャルキャリア」は奥が深いです。

「たまたま」の連続で、人と人とのつながりができていく

この日、お話の中に「たまたま」という言葉が何度も登場しました。

そもそもこのイベントが実現したのも、SILK の田中が東京のイベントで会ったベンチャーキャピタルの人が、

「こないだスリランカに行っておもしろい社会起業家の人に会ったんですけど、3月に京都に行くらしいからぜひ会ってください!」

と連絡をくれたことがきっかけだそう。スリランカのことなど全く知らない田中がスリランカカレーを食べるイベントに参加し、石川さんと意気投合した、というわけなのです。

「たまたま」の連続で、人と人とのつながりができていく。つながりのおかげで、大事なことを動かせる。

テキストで見るとなんだか出来すぎたストーリーにも見えますが、生きているとそんなことが度々起きるという実感は、私もなんとなく持っています。

後半は、参加者と登壇者が入り混じってダイアログの時間に。

一般社団法人ぼくみんの大澤 健さん・佐藤 由さんが「SLIDO」というツールを使いながら場をつくってくれて、たくさんの率直な声が集まりました。

問い「あなたのソーシャルキャリアを阻んでいるものは?」

イベント終了後、参加していた学生の方が感想を聞かせてくれました。

「こういうことを真剣に話し合える場所があって、すごく嬉しかったです。これまでは、自分の思いを話しても、あまり反応が返ってこなかったりもしたので」

手探りで進めてきた今回のイベント。そんな風につながりを感じていただける場になったことは、私たちにとっても何よりの喜びです。「ソーシャルキャリアの歩き方」、これからも続けていきたいと考えています。具体的なことが決まったら、またお知らせさせてください。ありがとうございました!

NPO法人 アプカス https://apcas.org/
NPO法人 次代の創造工房 http://www.jidai.or.jp/

取材・文:柴田 明(SILK)