湖国発のイノベーションを生み出す。「しがイノベーション・ハブ」レポート

京都市ソーシャルイノベーション研究所では、これまで実施してきた「社会(化)見学」や「ソーシャル・イノベーション・サミット」のプログラムの中に、多様な参加者による対話を盛り込んでいます。これは、イノベーションを生み出すためには、多様な人々(マルチステイクホルダー)による対話(ダイアログ)が重要であると考えているからです。

先日、我々が京都の中小企業を訪問したとき、社長は「何かやらなければいけない、ってことは分かっているんだけどね。設計図さえ作ってくれたら、何でも作るけどなあ。」と話しておられました。また、NPOの方は「解決すべき社会課題は明確ですが、商品開発なんてしたことがないし。」というお悩みが。どうしても、得意技が偏ってくるのは仕方ないことですが、皆さん、何とかしたいと思っておられるようです。

ビジネスをしていると、日常の取引先しか会わない、という状況が出てきます。製造業の方であれば、物を作る技術には自信があるけど、流通が分からない、エンドユーザーが分からない、ということはよくあるようです。小売業の方であれば、毎日の在庫管理と陳列に追われて、商品がどのようなストーリーで生まれたか、なんていうことに想いを馳せる暇がないかもしれない。そういう状況では、社内で議論しているだけでは革新的な製品、商品、顧客対応などが生まれにくいでしょう。

そこで、社内外の多様な方々とお会いし、対話するという手法が非常に有効になってきます。ただし、ただ異業種の方々と会う、というだけでは何も生まれない。やはり、そこには技術が要るのです。
そんな状況の下、各地でマルチステイクホルダーによる対話によってソーシャルなイノベーションを生み出そうという動きが出てきています。

ここでは京都のお隣の湖国・滋賀県で2016年3月に開催された
しがイノベーション・ハブ」をレポートします。

 

しがイノベーション・ハブは、大津市のホテルで開催されました。当初の予定を超え、約40名の方々が参加。私がお会いしただけでも、鉄道事業者、ホテル、NPO、和菓子製造業、行政などなど、本当に多様な方々が参加されていました。

NPO法人ミラツク 代表西村勇也さんからの話題提供

まずはNPO法人ミラツクの西村勇也さんから話題提供があり、ミラツクの概要説明とともに、「なぜ対話によりイノベーションをおこそうとしているのか」を解説されました。この中で非常に参考になったことが2点ありました。

イノベーションを生み出すプラットフォームの構築のためには、プロセスがある、ということ。

当たり前のことですが、人々が集まるからといって、最初からイノベーションが生まれるような場になるわけがない。この「しがイノベーション・ハブ」も、最初は「隣に座っている人はどんな人だろう?」と探りあいながら、自己紹介し合い、互いの活動を知り、互いの悩みを知り、互いに提供し合える情報や得意技を提供し合うというワークショップを体験しました。最初に「さあ、イノベーションを生み出しましょう!」といって社内プロジェクトチームや会議体などの枠組みだけを作ってしまうことがありますが、これは手段でしかない。大切なのは、「現状、我が社は、イノベーションを生み出すプラットフォームの構築のためのプロセスの、どの段階か?」を確認しながら、それにふさわしい手段を選ぶべきだ、ということです。初期段階では、互いの理解を深めるための対話に重点を置くでしょうし、目的や手段が明確になってビジネス化をする段階では、もっとタスクを明確にした議論になるでしょう。

「0.3%」を狙う、ということ。

よく会議などで「いいアイデアを出せ!」と言われますが、なかなか難しいですよね。西村さんによると、「参加者の多様性が広がれば、革新的な価値が高いアイデアも出るけど、いいアイデアが出る確率は下がる」とのこと。さしあたり、イノベーションを生むようなアイデアが出る確率は「0.3%」。このとき「え~、0.3%しか出ないの?時間の無駄だから止めよう・・・」となるか、「イノベーションをおこす尖がったアイデアがでる可能性が高くなるなら、やってみよう」となるか。大切なのは、「そんなアイデアは実現不可能だよ。」と言ってアイデアを潰す「アイデアキラー」を生み出さないで、「とりあえず、じゃんじゃんアイデアを出してみよう!」という機運を、ルールやファシリテーション、環境整備などで実現していくということです。だからこそ、ミラツクのような存在が必要となる。

 

このようなミラツクからの話題提供に続いて、湖国が誇るイノベーターたちが登壇。

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まずは、京阪電気鉄道、星野リゾート ロテルド比叡(ホテル)、叶匠壽庵(和菓子製造)、JAおうみ冨士の皆さんによるパネルディスカッション。対話を進める中で、互いに知り合うことがビジネスで直面している課題を解決できる可能性があることが分かりました。例えば、ホテルでは地元産品にこだわった料理を開発しようとしているけど、農家に行き着くまでに時間がかかる。それなら、JAおうみに一言かけてくれればいいじゃないか!という提案が。また、京阪電気鉄道としては、滋賀の様々な魅力を集めたい。じゃあ、ここに集まっている皆が提供し合えばいいじゃないか!という提案が。

 

こんな風にいい流れになってきたところで、更にナスカ(高齢者の見守りアプリ開発)、近畿健康管理センター(自主採血による出張健康診断の実施)、丸滋製陶(デザイナーと共に売る新しい伝統産業製品の提案)を加え、参加者も加わって6グループでダイアログを開始。テーマ提供者の課題を解決するための手法を掘り下げるダイアログとなりました。

ダイアログの様子

ダイアログの様子

 

 

今回の「しがイノベーション・ハブ」は、「イノベーションを生み出すプラットフォームの構築のためのプロセス」としては「まず、出会った」という最初の段階です。ここから、少しずつイノベーションを生み出す動きが加速していけば面白いですね。また、マルチになるためには、京都だけ、滋賀だけ、ではなく、地域の壁を越えることで多様なアイデアが生まれる可能性も感じました。

仲筋 裕則

仲筋 裕則

京都市産業観光局商工部中小企業振興課 ソーシャル・イノベーション創出支援係長。2012年から京都市ソーシャルビジネス支援事業を担当。 ビジネスを活用して社会的課題の解決に取り組む「ソーシャルビジネス」の認知度向上と 企業育成のための支援に取り組み、京都から日本の未来を切り拓く様々な活動を行う。