京都から鹿児島、そして長野へ|Community Based Companies Forum NAGANO レポート
京都、鹿児島に続き、2023年は長野で3回目の Community Based Companies Forum が開催されました。テーマは「すこやかな地域経済」です。長野県立大学と県立長野図書館を舞台に、「サスティナブル」「ウェルビーイング」の2つの軸でさまざまな対話が生まれた2日間。2018年の「京都・地域企業宣言」からの流れを受け、京都市からもたくさんのメンバーが参加しました。
今回、主催者からの呼びかけにはこのような言葉が綴られていました。
山々に隔たれ、多様な文化と経済圏がある長野県。それぞれの「平」や「谷」において、地域経済は、その土地土地のナラティブ(物語性)によって育まれてきました。
京都とも鹿児島とも違う文脈を持つ、長野という土地。昨年の「薩摩会議」に続き、今回も現地で全日程に参加したイノベーション・コーディネーター 井上 良子に、どんな気づきや学びがあったのかを振り返ってもらいました。
自然の時間軸を大切に、「サスティナビリティ」と「ウェルビーイング」を考える
── 京都から一部のセッションをオンラインで見ていたのですが、興味深いお話がたくさん聞けました。現地で参加して、どうでしたか?
井上: 長野ならではの時間軸を感じました。山や森、川といった自然が人の営みのすぐ側にあると、時間の感覚が変わってくるんだなと。私たちが「1年後にこうやりたい」と思っても、自然はその通りに動いてはくれません。人間の都合だけでは考えられないんですね。それを当たり前のこととして皆さんが受け止めている感じが、とても新鮮でした。
昨年の鹿児島では、主催者が中心となったコミュニティが周りを巻き込んで、「社会を変革しよう!」という強いエネルギーを発していました。今回は、各地域のプレイヤーが集まって交流し、それぞれのフィールドに持ち帰ってまたお互い頑張ろうという、ゆるやかなつながりが育まれているように感じました。
── 長野県は全国の都道府県の中で4番目に大きく、日本アルプスの山々に囲まれた土地でもあるので、自然と人との距離感が私たち京都市民とはずいぶん違いそうです。セッションタイトルにも、長野らしい言葉が並んでいますね。
井上: はい。2つのキーコンセプトとして掲げられていた「サスティナビリティ」と「ウェルビーイング」が、全体を通してさまざまな視点からしっかり掘り下げられていました。各セッションの話の流れが自然とつながっていて、聞くたびに思考が深まっていく感覚があって。それが、あらかじめ設計された予定調和じゃなくて、自然発生的だったんです。大きなところでつながっている感じ。雄大な自然に囲まれている長野らしいなと思います。
[セッションタイトル]
DAY1
・「地域を編み直す、『コミュニティ』の可能性」
・基調A「森里海の連なりから考える、川の上流としての役割」
・基調B「すこやかな地域経済を育む、イノベーションの速度」
・「『間』に橋を架ける、コーディネーターの役割」
DAY2
・A-1「信州の未来につなぐ、これからの森林」
・B-1「個人のウェルビーイングから起こす、『いい会社』のつくりかた」
・A-2「『平』や『谷』、土地の物語性から紡がれる地域経済」
・B-2「地域やコミュニティを支える、わたしたちの『よりどころ』」
・「Community Based Companies Forumとは」
井上: 例えば、SILK所長の大室先生と、京都大学 名誉教授の田中 克 先生が別のセッションでそれぞれお話しされたことが、すごく重なっていたんです。田中先生は森里海連環学の提唱者であり、3年前に長野県北部の信濃町に移住されていて、お二人とも京都と長野の両方に関わりが深いんですよ。
これまでは、自然と経済は相反するものとだと考えられてきました。これからは、トレードオフの関係で捉えるんじゃなくて、互いに補完し合うものとして自然と経済を考えることが大切だと、お二人はおっしゃっていて。人間はヒトとそれ以外を区別し、ビジネスも学問も細分化することで発展させてきました。サスティナビリティを考えるためには、一度立ち止まって、分断してきたものを統合すること、あるものとあるものの間にある曖昧な領域を捉えることを大切にすべきではないかと。
個人のウェルビーイングが、地域のすこやかさと自然につながっている
── オープニングセッションで語られた「あいだ」というキーワードは、その後も何度も登場していましたね。他にも印象的に残ったエピソードがあれば、聞かせてほしいです。
井上:「ウェルビーイング」の捉え方について、最初に話があったんですけどね。ウェルビーイングの話をするときに、個人のやりたいことや社会貢献が問われる雰囲気があるんじゃないか、その結果、苦しくなってしまう人もいるんじゃないかと。個人を起点にするんじゃなくて、組織から見た私、社会の中にいる私、という捉え方で考える方が、範囲が狭まって手のひらにおさまる感じがするよねっていう話で。納得感があったし、参加者みんなの目線が合った感じがしました。
2日めのセッションで、ある方が「自分がやりたいことをやってるだけ。でも、その結果としてまちが元気になったと言われるのは嬉しい」ということをおっしゃったんです。宮坂醸造株式会社という400年以上続く酒蔵の代表の方で、近隣の商店や寺社と連携して、まち全体に賑わいをもたらす取組をされていて。一方で、事業に関して息子さんからたびたび反対の意見をぶつけられることを、会社の「脱皮」「循環」という言葉でポジティブに表現されていました。「くそーって思うけど」と前置きをしたうえでね。すごく健やかだなぁ、いいなぁって思います。個人のウェルビーイングが、地域のハッピーと自然につながっている感じがして。
── 素敵ですね。京都で起こっているまちづくりの取組とも、共通するところや学び合える点がたくさんありそうです。鹿児島、長野と、日本中に関係性が広がっていく感じが嬉しいですね。
井上: 全国から集まった人たちが、それぞれの地域が持つ文脈に触れながら一緒に考える。そんな場ができてきましたね。長野の人たちは実直で優しくて、とても居心地がよかったです。京都と鹿児島のメンバーがワッと盛り上がって暴走しても、あたたかく受け止めてくれていて(笑)。すでに来年の企画が別の地域で立ち上がっているようなので、今から楽しみです!
[イベント紹介ページ]
Community Based Companies Forum NAGANOを開催します。|Local Innovation Initiatives
[イベント実施体制]
主催:一般社団法人ローカルイノベーションイニシアチブ
共催:長野県立大学
協力:一般社団法人リリース、NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF、塩尻市シビック・イノベーション拠点「スナバ」
後援:信州大学
[参考記事]
鹿児島へとつながり、広がった「Community Based Companies」の共鳴|薩摩会議2022レポート 2022.06.17
全国に点在するプレイヤーが学び合い、それぞれの場を広げていく。|Community Based Companies Forum 〜希望の兆しかもしれない。見本市〜 2021.03.16
取材:井上 良子 / 柴田 明(SILK)