【個別相談】「京都オリエンテーション」創業/西 恵味さん
【SILKの個別相談支援 事業者インタビュー】 個別相談を通じてどのように事業や経営を「深化」させていったのか、事業者さまご自身の言葉で語って頂くシリーズです。
京都オリエンテーション URL:http://kyotori.com/
京都に来日または来日間もない、子ども連れの外国人家族の方々を対象として、コミュニティの中で生活を円滑に立ち上げていくための日常生活全般のカスタマイズ型ワンストップサービスを提供する。
2016年1月創業、サービス提供開始。
秋葉: 創業、おめでとうございます。今日は、改めて、京都オリエンテーションの今まで、そして、これからを教えてください。まず、事業を思いついてSILKにつながるまでの経緯を教えてください。
西さん: 一人目の子育中に、外国から来た日本語を話さない一人のママ友達と知り合い、地域のサービスや子育て情報を英語で伝えていました。それがきっかけで、2010年5月に、「Jafore(ジャフォール)日本語を母語としない家族のための子育て支援チーム」を設立し、外国から小さな子どもと一緒に京都に来たご家族の、子育てや生活を応援するボランティア活動をしてきました。しばらくして、ボランティアでは対応できないこと、行政でもできないこと、加えて、専門的な知識や経験が必要な問い合わせがとても多くなってきました。家族の気持ちに寄り添いながら安心感を与える専門的なサービスを、持続可能な方法で提供していくために、どうしたら良いかと考え始めていたところ、地域の課題をビジネスの手法で解決するという方法があることを知りました。
ジャフォールの活動への助言を、以前から山中さん(当時、京都市まちづくりアドバイザー。現SILKコーディネーター)からもらっていました。私が「どうしたらいいのか分からないのだけど、ボランティアではなくて、持続可能な方法で外国からきた家族を支えていきたい!」と思っていた時に、ちょうどSILKが新設されたので相談しました。
秋葉: SILKでの最初の対応記録は設立直後の2015年4月でした。その後、数度のヒアリングを経て9月から本格的に個別相談の支援に入りました。今回の支援の具体的な内容をご紹介ください。
西さん: 個別相談はSILKイノベーション・キュレーター秋葉さんに、対面で一対一で1回2時間くらい、毎回しっかりセッションをしてもらいました。事業の理念は何か、事業内容の具体的な中身やその価値について、最後の頃には契約書の検討や広報計画なども一緒に検討してもらいました。契約書は弁護士までつなげてもらえて心強かったです。子どもの預け先が探しにくい時のセッションはSkypeでしてもらいました。毎回のセッション時の詳しい記録も役立ちました。
SILKからは本当に心強サポートをいただきました。私1人だけでは行き詰まって、事業化を諦めていたかもしれません。3番目の子が家にいる環境で、絞り出すようにして確保する時間の中での創業準備は、正直、大変だと思うこともありました(笑)。でも、相談を重ねじっくりお話しをしながら考えることで、モヤモヤっとしていた頭の中を一つ一つ言葉にすることができました。そしてワクワクする気持ちを味わうことが多くありました。相談の中で、自分自身のことを客観視する機会がたくさんありました。価値循環図をつくったり、これまでの自分の経験を振り返ったり、どんな未来を描きたいかを考えるそれぞれの作業は、新しい気づきがありました。自分がワクワクしながら働けるんだということや、自分のライフステージにあわせてサービスのバリエーションを増やすことができるんだ!ということにも気がつきました。なぜこの事業をしたいのかという「想い」や、事業を立ち上げたあと、どうしていきたいのかという「ビジョン」が見えてきました。この数か月間は、“私の事業はこれでいいんだ”という自信になりました。
秋葉: 子育てと創業準備、同時は大変だから時期をずらそうとは思わなかったですか?
西さん: 思わなかったですね。かえって、子育てと準備と両方並行してやることがよかったです。どちらか片方だけでは煮詰まってしまったと思います。時間を区切りながら、子育てと事業準備をいったりきたりして、どちらも気分の切り替えができました。毎回の宿題も、やり始めればどんどんできるのが不思議でした。それは相談のセッションで先に考えたことが宿題につながっているからだったんですね。創業直前は宿題が10個くらいになっていて、こんなにできるんかなと(笑)。大変でしたけど楽しかったです。
秋葉: 個別相談の支援をひとことで表現すると?
西さん: マラソンの伴走者です。
個別相談の支援でしてもらってきたことは、自分のことを整理して可視化する作業だったと思い返しています。それから、相談の時間はいつも勇気とやる気をもらう時間です。実は、今までにも産業支援機関で指導を受けているんですけれど、上からの型にはまった指導で、事業が形にならなくてもどかしかったです。個別相談の支援はまったく違っていて、完全に私に寄り添ってくれていました。こんなに私の想いを理解してもらえているのが不思議なんですが、いつもしっかり寄り添ってもらっているという感覚はとても心強いです。
秋葉: お役に立ってうれしいです。今後、事業をすすめていく中で、西さんが最も大切にしたいことは何ですか。
西さん: 「外国から来た家族が地域の一員として、家族で支え合って暮らすことのできる環境を整えていくこと」を常に意識して事業を進めます。これはわたしの経験からきている経営理念の言葉です。私は、エチオピアで暮らした経験があって、そこで言葉が通じない中で生活をする苦しさや不自由さを体験していますし、1人目の子育ての時は頼る人がいない中で不安も大きく、孤独な気持ちを感じました。でもそんなときに家族や自分と近しい人が気持ちを理解してもらえたことに助けられて、その経験があったことが私の人生を豊かにしていると感じています。
秋葉: 京都オリエンテーションのこれからの予定と夢を教えてください。
西さん: 今は、幼稚園、小学校低学年くらいの小さな子どもがいる家族にサービスを提供していますが、今後は、比較的大きな進学する子どもを持つ家族のサービスへも展開し、事業の幅を広げ、質を高めていきます。1年後には、大学や企業へ広げます。そして2年後を目処に、地域の幼稚園や保育園、学校へのサポートサービスの提案へと広げる予定です。
「京都オリエンテーションのおかげで、日本での生活がとても心地よいものだった」といってくれる人が増え、お客様のご紹介で新しいお客様に出会っていきたいと思います。20年後に、ご家族がまた訪ねてきてくれたらとても嬉しいです。それが夢です。
秋葉: 今回、ボランティア団体を事業体に切り替えるのではなく、二つをお互い補完的な関係で進めるプランにされました。それはなぜですか。どんな未来を描いているのでしょうか。
西さん: 京都オリエンテーションは、これまでのジャフォールの活動でつながった多くの人に支えられている事業です。それは今回、価値循環図でしっかり自覚しました。その中で、ジャフォールだからできる活動と、京都オリエンテーションだからできる事業があります。例えば、外国から来た家族が地域の中で気軽に集える場をつくったり、外国人コミュニティや宗教施設と一緒にイベントを開催したり、同じ言葉を話す人と人をつないだり、外国からきた方の活躍の場を地域の中で提供していく活動は、ジャフォールでないとできません。京都オリエンテーションは、これまでのサポート経験や、8年以上にわたり地域で暮らし子どもを育てながら得た情報の蓄積があるから、それぞれのご家族の、ご家族も気付いていない隠されたニーズが見え、ご家族に寄り添い、状況に合った解決策を提案することができます。京都オリエンテーションは、そのご家族のためのご家族向けにカスタマイズした専門的なサービスです。
文化やことばの違う人たちと話しをしたり、いろんな価値観に触れたり、多様な価値観に地域が開かれているという状態は、いままで気がつかなかった新しい視点を地域に与え、より暮らしやすい地域について考える機会になります。それが、暮らしを通じた多文化共生社会の実現になると思うのです。事業とボランティアを通じて、その実現に近づいていきたいです。
秋葉: さいごに、これを読むみなさまへのメッセージを
西さん: 結婚、出産、仕事、それぞれのタイミング、時期があると思うのですが、私たち世代の一人一人の生き方や働き方の蓄積が社会を変えて行くと思います。私は、いろいろな働き方があることを外国から来た家族から学びました。子どもの夏休み中は職場に子どもを連れてくる人がとても多いということ、小さなビジネスを持っているお母さんが多く柔軟に働いているということ、また、自分のキャリアアップのために子どもと離れて一人で留学をすることも珍しくないということも知りました。視野を広げるといろんな選択肢があることに気づかされます。私自身不安も多く、迷うこともありますが、SILK個別相談はそれぞれ自分が描く働き方をワクワクしながら実現できるように、親身になって応援し背中を押してくれます。この先どんな社会になっているかは分からないけれど、周りの大切な人にとってよきロールモデルになれるように頑張っていきましょう。
秋葉: 私も、20年後に向かうこれからの西さんの歩みとこの事業が楽しみです。わくわくしながら未来をつくりましょう。
インタビュー:2016年3月8日