鹿児島へとつながり、広がった「Community Based Companies」の共鳴|薩摩会議2022レポート
「150年後の世界に、私たちは何を遺すのか」
そんな問いを掲げ、鹿児島市で3日間に渡って開催された「薩摩会議2022」。これからの地球社会のあり方を問い、共に未来を創造するための対話型カンファレンスであり、2021年に京都でスタートした「Community Based Companies Forum」の第2回としても位置付けられました。2018年の「京都・地域企業宣言」からの流れを受け、門川 大作 京都市長やSILK所長の大室 悦賀も登壇させていただくことに。濃密な時間を共に過ごすことができました。
北は北海道から南は沖縄まで、全国からお互いの取組に共感し合う仲間が集まったという、鹿児島での3日間。プログラムには「文明」「地域経済」「行政 産業振興」「地域金融」「コミュニティ」「消費」「森」「離島」「スタートアップ」「観光」「ダイバーシティ」「家」「教育」「水産業」「働き方・暮らし方」「食」という16のキーワードが並びます。
現地で薩摩会議2022に参加したイノベーション・コーディネーター 井上 良子に、どんな気づきや学びがあったのかを振り返ってもらいました。
顔の見える関係性で運営しアーカイブは残さない、だから本音で未来に向けて語らえる
── 盛り上がっている様子が京都まで伝わってきました!全体としてどんな印象でしたか?
井上: まず熱量がすごかったですね。3日間の長丁場だったにも関わらず、最後のセッションまでほとんどの人が参加し続けていました。会場の空気として、新しい何かが始まる予感があったからだと思います。会を主催したNPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF(以下、SELF)の皆さんは、薩摩会議で得たものを一人ひとりがアクションにつなげることを、すごく意識されていました。例えば当日配布されたパンフレットには、参加者が自分の言葉で書き込むためのスペースと問いがふんだんに用意されています。話を聞いて終わりにはしたくないという強いメッセージを感じました。
井上: 私は出身が福岡で、今回数年ぶりに九州に里帰りしたんです。九州独特の熱さを感じて……言葉で説明するのは難しいんですけど、人と人との距離感なのかな。すごく懐かしい感じがしました。主催者と参加者の間に明確な境界線がなく、自然と混ざり合って、仲間として一緒に何かを生み出そうという雰囲気ができていましたね。主催者側のメンバーからも、それぞれがCommunity Based Companiesの一員として、言い方を変えれば地域で働く1人の人間として、イベントに参加する姿勢を感じました。SELFが日頃から顔の見える関係性を大事にしてきたことの表れだと思います。
会場で毎日配られたお弁当が、その象徴でしたね。使われているのは生産者さんと直接やりとりをしている食材ばかりで、農家さんからのビデオレターもあって。そのお弁当をみんなで美味しくいただく時間が、すごくあたたかかった。また、会場では大学生のボランティアスタッフも活躍していました。途中で機材トラブルがあったんですけど、会場みんなで「がんばれー」って応援しながら待つ空気も印象に残っています。
── 当日はオンライン配信もありましたが、アーカイブは残さないという方針を伺いました。
井上: 珍しいですよね、あれだけ機材がそろっていたにも関わらず。でも、きれいに整えられる前のなまの状態を共有することでしか生まれない、ライブ感っていうのかな、そのエネルギーは感じました。残らないからこそ、話す側も本音を言えるし、聞く側も本気で耳を傾ける。京都から株式会社ウエダ本社 代表取締役の岡村 充泰さん、京都信用金庫 常務理事の竹口 尚樹さんが参加されたセッション「150年の歴史から、150年後の地域金融を考える」でも、かなりぶっちゃけ話が出ていました(笑)。
そういう場だったからこそ、初対面の人同士で「一緒にやりましょう」という声が実際に出ていたんだと思います。参加者がスマホから感想や意見を自由に書き込めるサービス「slido」もかなり盛り上がっていて、150件以上のコメントが集まったセッションもありました。
温度差があるプレイヤー同士が絡み合うことの意味
── 一番印象に残ったセッションはどれですか?
井上: 2日目の「カオスから立ち上がるコミュニティのメカニズム」が、めちゃくちゃおもしろかったです!福島県の会津地方で過疎地域のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めている藤井 靖史さんという方が、おもむろにお味噌汁の話を始められて。コミュニティ内の温度差ってネガティブに捉えられがちだけど、温度差があることによって対流が生まれて、その結果としていい感じの構造ができるっていうお話なんです。
井上: 先に構造を作るんじゃなくて、温度差があるプレイヤー同士が混ざり合って初めて構造が生まれる。その流れこそが重要なんだと。SILK所長の大室先生の考えとも共通するなぁと思いながら聞いていました。最初からかたちにしようとせず、いったんあいまいなまま受け止めることが大事なんですよね。
── 京都と鹿児島と、今後も何か一緒にできることがありそうですね。
井上: はい。鹿児島や次の長野だけでなく、参加されていた他都市の方とも関係性が広がりました。「教育の未来、地域からはじまる学びのエコシステム」というセッションでは、広島の修学旅行の話が出ていて。京都も今年、修学旅行生に向けて「Q都スタディトリップ」というSDGs探求学習プログラムを始めたので、一緒に何かできそうですねという話ができて嬉しかったです。
鹿児島に行く機会があったら、DAY1の会場になった県庁18階「かごゆいテラス」にぜひ立ち寄ってみてください。県内の事業者さんが作ったお菓子やお茶、特産品を販売する「EAT LOCAL KAGOSHIMA」も楽しいですし、SELFが運営する会員制コワーキングスペースもあります。ちなみに、「かごゆいテラス」という名前は一般公募と県民投票で決まったそうです。一方、DAY2〜3の会場は民間企業が運営するLi-Ka南国ホールでした。これだけパブリックなテーマを扱うイベントを民間団体であるSELFが主催したということ自体も、彼らが官民の架け橋になり、異なるセクターが混ざり合っていることの表れだと感じます。
── 京都から鹿児島へ、そして次は長野へと続いていくんですよね。
井上: そうなんです。長野には長野独自のコミュニティや産業、文化、自然があるので、また全然違ったものになるのではないかと思います。今回、鹿児島の人たちの、150年前にこの地から明治維新という大きな革命が起こったことへの誇りをひしひしと感じました。その意識が「薩摩会議」という名称と、「150年後の世界に、私たちは何を遺すのか」というテーマにつながっています。次の長野はどうなるのか、そしてその次はどの都市がバトンを受け取ってくれるのか……楽しみですね。
コラボレーションから“もつれ合い”へ
オープニングで、SILK所長の大室がこんなことを話していました。
「セクター間のコラボレーションがたくさん起こっていますけど、もうコラボレーションはやめましょうよ。別々の存在として協力し合うじゃなく、一緒になって取り組みましょう。量子力学に『エンタングルメント』という、もつれ合いを意味する言葉があります。イノベーションの源泉はここにあると思います。地域それぞれのもつれ合い方があるんですよね。鹿児島と京都は違うし、長野は長野でまた違う。そこに着目して色んな人の話を聞いてみると、おもしろいと思います。」
それぞれの人や組織、地域のあり方に興味を持ち、お互いを尊重し、巻き込み、巻き込まれるうねりが生まれる場。京都で産声を上げた「Community Based Company」という言葉から、遠いまちへと未来を考える動きが広がっていく。こんなに嬉しいことはありません。SILKとして私たちができることの一つひとつは小さいですが、各地のプレイヤーと共に、希望の兆しを増やしていければと思います。薩摩会議2022に関わられた皆さま、本当にありがとうございました!
[イベント紹介ページ]
薩摩会議2022 概要|SELF
[イベント実施体制]
主催:NPO法人 薩摩リーダーシップフォーラムSELF
共催:鹿児島市、鹿児島離島文化経済圏、Community Based Economy
協力:一般社団法人リリース、南日本新聞社
後援:京都市、MBC南日本放送
[参考記事]
全国に点在するプレイヤーが学び合い、それぞれの場を広げていく。|Community Based Companies Forum 〜希望の兆しかもしれない。見本市〜 2021.03.16
取材:井上 良子 / 柴田 明(SILK)