不動産事業からまちづくり事業への転換|吉田 創一|フラットエージェンシー
第2回「これからの1000年を紡ぐ企業認定」認定企業の株式会社フラットエージェンシーは、現会長の吉田 光一さんが1974年に創業した不動産会社です。不動産の賃貸・売買にとどまらず、地域社会の状況や住民の声に寄り添った事業を展開されています。今回のコラムでは、2015年に代表を引き継がれた息子の吉田 創一さんに、地域社会の中での一歩先を捉えた挑戦についてご寄稿いただきました。
過去の取材記事はこちら↓
まっすぐ真面目に、地域の困りごとに応えつづける不動産屋 「株式会社フラットエージェンシー」 [これからの1000年を紡ぐ企業認定]
[目次]
1. 創業からの歩みと転換点
2. お客様や社会の一歩先を創造する
3. withコロナ、afterコロナの時代に求められるもの
4. 学生のまち京都で目指すこれからの方向性
1. 創業からの歩みと転換点
1974年8月、「地域に必要とされ、地域に貢献できる会社へ」、「お客様の喜びが私たちの喜び」の理念のもと創業。当時は手がける会社の数も少なかった「賃貸不動産仲介業」をスタートしました。
不動産業としての転機は、1997年。建設省が打ち出した21世紀ビジョン報告書に書かれていた「不動産業はまちづくり産業」という一節に、衝撃を受けました。新しい時代の幕開けを感じ、やりがいのあるこの仕事に、果敢にチャレンジしていこうと決意します。
振り返ってみると、まちづくり業としての最初の取組は、管理物件に住む学生の孤独死をきっかけに生まれました。学生の孤立を防ぐシェアハウス事業です。
年々増えていく留学生・外国人移住者のサポートも強化していきました。留学生をスタッフとして雇用するなど、物件を貸すだけでなく、就職や暮らし全体を支えることを考えてきました。
これを機に、従来の「不動産仲介」や「賃貸管理」だけでなく、「空き家の再生」「コミュニティづくり」などに取り組むようになります。不動産業を「まちづくり業」と定義し、クリエイティブな住空間づくりや社会課題解決型ビジネスへと展開することで事業の幅を広げてきました。
この間、「不動産」というツールで京都のまちの課題解決を図っている点が評価され、名誉ある賞もたくさんいただきました。
この10年間のフラットエージェンシーを振り返ってみると、大きく成長してきたと感じます。5店舗(本店、下鴨店、京都産業大学前店、立命館衣笠店、京都駅前店)から始めた賃貸営業店舗も年々増え、新たな地域交流の場も開設しました。
2009年 京都大学前店、同志社大学前店を開設
2010年 建築部を開設。大型リフォーム、京町家の再生に注力。
2011年 北大路駅前店を開設
2014年 地域交流サロン「TAMARIBA」を開設
2. お客様や社会の一歩先を創造する
そして2015年7月、創業から40年という節目を迎えた年に、創業時からの想いでもある「お客様の笑顔が、私たちの喜び」という理念を胸に、代表取締役に就任いたしました。
社長就任後もお客様・入居者様の要望や社会が求めることの具現化に取り組み、「若手芸術家が活動できるコミュニティの場」「商店街のエリアマネジメント拠点」「国際交流のできる食事付き学生寮」などを展開してきました。
日常の業務でも、「お客様が求めるニーズは何か?」を常に考えてきました。オンラインで物件を紹介し契約まで行う「おうちで契約」、入居者のニーズにマッチしたお部屋づくり・リノベーションなど、常に一歩先のことを創造し、事業に取り入れています。
2010年に11億円だった売上も年々着実な成長を遂げ、2019年には20億円に到達しました。お客様の声を聞き、それを事業化する。それだけのことではありますが、真摯にその声に応えることで、ここまで成長させていただくことができました。
2020年は新型コロナウイルス感染症の拡大により社会が一変し、世界中のあらゆる生活様式が見直される1年となりました。弊社も大きく影響を受け、厳しい1年となりましたが、このコロナ禍において感じたことは「お客様(入居者様もオーナー様も)は、人との繋がり、地域との繋がりを求めている」ということです。
3. withコロナ、afterコロナの時代に求められるもの
新型コロナウイルスの影響を受け、なかなか慣習から抜け出せなかった不動産業界も、急速に変化していくだろうと思います。今後は、よりクリエイティブな発想が必要になるでしょう。
そう感じたきっかけは、弊社でリノベーションを手掛けさせていただいた「京都下鴨修学館」でした。女性の進学がまだ珍しかった時代に使われていた女子寮が、多拠点居住者・大学生・一般居住者が共に暮らす拠点として生まれ変わったのです。これからの暮らし方や家族的コミュニティのあり方を実践する場として、ゆるやかに社会に間口を開きながら生活をされています。
入居者の募集は2020年3月頃からでした。新型コロナウイルスの感染が拡大する最中ではありましたが、7月の完成と同時に22室が満室となりました。完成後も打ち合わせで定期的に伺っていますが、楽しそうに暮らす入居者様の顔を見ると嬉しく思います。同時に、訪問の度に新たな発見があり、たくさんのことを学ばせていただいています。
「ここに住んでから、ほとんどお金を使わずに生活ができている」との声もいただきました。「京都下鴨修学館」の暮らしには、「少子高齢化・人口減少」といった社会問題に適応した住まいのヒントがあると考えています。
また、コロナ禍においては、事業を1社で考えるのではなく、連携して進めていくことの大事さも加速したように感じます。弊社が手掛けた「新大宮広場」の取組もその一例です。「商店街にある100坪の空き地を地域活性の場にしたい」という土地の所有者の呼びかけに、企業、大学教授、建築家、地域住民などが集まり、芝生やキッチンを備えたレンタルスペースを立ち上げました。多様な地域の人たちと共創したからこそ、様々なイベントで賑わう広場が生まれたのです。
4. 学生のまち京都で目指すこれからの方向性
京都は学生のまちであり、起業を目指す学生も増えています。行政も、スタートアップを支援する環境として、次世代を担う人たちへのバックアップ体制を整えています。そのような中、ベンチャー企業の社長と交流する機会も増え、私にはない発想やアイデアからとてもいい刺激を受けています。弊社は8,000室の賃貸物件を管理しているのですが、その内の実に5,000室は学生の方にご利用いただいています。京都に学生の活躍の場が広がっていくことは、弊社としても嬉しい限りです。
現在、あるベンチャー企業と連携して、弊社の管理物件に住む学生を対象に、就職に向けての自己分析・スキルアップをサポートするサービスを計画中です。今後は、彼らと京都の地域企業を結ぶお手伝いができるよう、更に連携を広げていきたいと思います。京都のため、お客様のためにという想いが、ひいては弊社の事業にも繋がっているのです。
今後の不動産業、そしてフラットエージェンシーが目指すべき方向を、次のように考えています。
・仲介業から「住まい」のコンサル業へ
・社会全体が求める「地域活性」に向けて、まちづくり業からクリエイティブ産業へ
・業務の効率化(デジタル化)を推進し、 0から1を生み出す、人にしかできない仕事
・次世代の地域の暮らしを支える土台となる
変わらねば生き残れないという危機感を強く持って、ビジネスを変革していきたいと思います。2021年以降どのような社会になるのか、全く予想ができませんが、創業時からの想いである「お客様の笑顔が私たちの喜び」を今一度念頭に置いて、全社一丸となって事業に取り組んでいきます。