2代目社長ができる、”働く人の幸せの追求”と継承|齊藤 徹|(株)アグティ

今回のSILKの研究は、株式会社アグティ 代表取締役 齋藤 徹さんのコラムです。叔父から事業を継承したクリーニングの会社を自分らしく経営することで見えてきた問いの変遷や、“働く人の幸せの追求”について寄稿いただきました。

[目次]

1. 自分中心の仕事
2. 背負うことで生まれた少しの責任感
3. 僕らしい経営者でありたい
4. 会社は働く人たちが幸せになるための道具
5. さいごに

1. 自分中心の仕事

2013年4月、35歳の時、事業承継し代表取締役に就任。現在43歳。僕らしい経営者としてのあり方をお伝えできればと思います。
19歳の時、叔父が起業した会社に無理を言って雇ってもらい社会人生活をスタート。

仕事は楽しかった。お客さんから「ありがとう」もたくさんもらった。仕事を任されることがうれしかったし、社長(叔父)や専務に褒められることで充実感もあった。会社も少しずつ大きくなり人も設備も増えたし、収入も増えていった。僕はいい感じだった。

24歳の時、僕を慕って入社した後輩が辞めた。「僕はあなたのロボットじゃない。」

事務スタッフが辞めた。「齊藤さんの目が怖い。」

工場スタッフのいい加減な行動に我慢できず手を上げたこともある。自分本位、自己中心的、圧力的、支配型……自分の仕事をうまくやるため、思い通りに人をどう動かすか。共に働く人たちのことを「道具」としか思っていなかっただろうと思う。

2. 背負うことで生まれた少しの責任感

25歳で取締役。肩書をもらって、給料が役員報酬という名前に変わって、金額が増えた。自分のデスクができて、椅子には肘掛けがあって背もたれが高い。研修に参加して経営理念や経営戦略、損益計算等の経営に関わる勉強をする機会を得た。

取締役は、会社経営を預かる立場。一緒に働く人たちの人生を預かる、影響を与えるということを教わって責任を少し意識するようになったのだと思う。そして、置かれている環境と時間の経過によって経営者としての意思が強いものになっていったのだと思う。振り返ってみると、役割と責任を背負うことって意味のあることだなと思うし、当事者意識を持つ最高の機会であると思う。

3. 僕らしい経営者でありたい

35歳、代表取締役。経営理念の明文化。専務からここからだと教えてもらい着手。今までの人生の中で最も真摯に向き合い考えた時間。いくつもの勉強会に参加し、先輩経営者の話を聞き、たくさんの本を読んだ。経営のやり方だけではなく、人としての在り方。なぜ生きるのか、どう生きるのか。思考が行ったり来たり、投げ出したり拾ったり、頭抱えたり深呼吸したりしながら1年かかった。腹が決まった。

創業者の想い=創業精神を軸に、僕らしいあり方でやろう!

「会社は、働く人のために存在する。」

ロールモデルのように目標を設定して進むことはやらなくていいのではないかと思う。僕は僕らしく、その人はその人らしく、創業精神のみを軸として、その人なりのあり方・やり方で経営すればいいと思う。創業精神を軸にするのであって、創業者を軸にするのではなく。同じような考え方の会社ばかりだとつまらないし、会社にもいろいろな色があることが働く人たちの選択肢になる。

会社が倒産する理由を、ビジネスモデルが古いとか、収益状況が厳しいなどと言われる。表面化する事実はそうだろうけど、本質的な原因を考えると、働く人にとって魅力がなくなった時、働く人にとって意味ある会社でなくなった時に会社は倒産するのではないか。働く人にとって価値ある会社、必要だと感じられる会社は残るように思う。

4. 会社は働く人たちが幸せになるための道具

会社は継続しなければならない、存続することに意味があると様々な場で教えてもらったけど、違和感がある。主人公が人ではなく、会社に聞こえる。会社にとって都合のいい人を育てる人材育成プログラムや人事評価制度、規模を大きくすることが目的化された売上目標やノルマ、従業員という言葉。全て僕にとっては違和感があるから、違和感のない僕らしいあり方、やり方でやっている。

みんな幸せに生きたいとは思っているはず。「生きる」の一部に働くがある。だから、働く場である会社を、働く人たちが幸せになるための道具として最大限活用しよう。最大限活用するためには、働く人たちにとって「働く」が自分事でないといけない、当事者意識がないと道具は活用できないと思う。

働くことを自分事にするためには、自分で考え決めること、自分で責任を負うことが大切だと思う。そのための環境づくりが必要だと思い、チームによるマネジメント体制を実践中。事業ごとにチームを組み、収益管理・年度方針の作成・検証・スタッフの採用等を行っている。経営を担うマネジメントチームは取締役2名、スタッフ3名の計5名。財務諸表を開示し経営に関する全ての事項について話し合いながら進めている。スタッフの採用について、ここ10年ぐらい僕は採用面接をしたことがないし、選考に関わったこともない。

チームによるマネジメント体制をとることで、僕のやり方とは違うやり方も出てくる。やり方にバリエーションがあるのは個性の証であり、チームであることの意味。僕が考えることよりもはるかに素晴らしいやり方やアイデアが出ることもたくさんあるし、勉強させてもらっている。だから僕がすることは、問いかけること。なぜそのやり方になったのか、考える起点が創業精神であるのか、やり方ばかりにフォーカスされ本質が見過ごされていないか。本質をわかりやすく伝えるために、視覚的にやり方を提案することもたまにはある。

5. さいごに

創業精神を軸にしてはいるものの、実際に自分が考えていることは近視眼的だなとSILKの勉強会で教えてもらったので、長期的に俯瞰しながら考えるように心がけている。

サバティカル(使途に制限がない職務を離れた長期休暇)という制度をつくりたい。リフレッシュ休暇を5歳ごとに1ヶ月。どんな時間にするかはその人の自由。だらだらしたり、遊んだり、旅行したり、振り返ったりする時間など自由。人生の中にそんな時間があったらいいなと僕が思うので。必要ないと思う人は取得しないのもあり。

オモシロそうという感覚から、洗濯のお仕事で化学洗剤の使用をやめてみた。自然由来で環境負荷がない洗剤に変更して実験中。業務用洗濯で可能かどうかは未知数だ。お掃除のお仕事では、AIのお掃除ロボットを導入して実験中。久御山町でミニイノベーション・キュレーター塾の企画を仲間たちと企み中。社会課題にフォーカスしたドキュメンタリー映画の上映会を、2021年4月より京都3拠点で開催する。社内ユニホームにフェアトレードTシャツを一部導入する予定。高齢者の人と一緒に仕事をするための拠点づくりを検討中。他には、面白そうな人たちがいる団体に僕がインターンとして3か月参加する計画などもある。

近いうちに事業承継の時期がくる。次の代表がその人らしい経営をするためのアドバイス。それは「社名を変える」こと。最もわかりやすいメッセージになるのではないか。その社名に思いを込める。そのプロセスが経営を自分事化させることになる。創業精神を軸に、その人らしい経営をするために。

ここまで書いて思い出したことがある。サッカー部の恩師の言葉、「キミは君らしく」。これからも僕らしい経営者であろうと思っています。


 

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齊藤 徹

齊藤 徹

株式会社アグティ 代表取締役

1977年10月生まれ、43歳。19歳で有限会社アロマクリエイト(現:株式会社アグティ)入社。25歳で取締役、35歳で事業承継し代表取締役に就任、現在に至る。宇治市在住、妻と子供2人の4人家族。障がいのある人の就労支援事業所NPO法人ブルーステージの理事長も務める。