地域、顧客、職員の幸せづくりから問い直す、地域金融機関の存在意義|満島 孝文|京都信用金庫

「地域金融機関の役割」と聞いて、皆さんはどのようなことをイメージされるでしょうか?預かったお金を必要としているところに貸す。利息の多い少ないはあれど、どこの金融機関もやっていることは同じなのではないか。一般的にはそう思われるかもしれません。でも、京都信用金庫 豊中支店長の満島 孝文さんは、「地域」「顧客」「職員」が幸福を感じること、それによって持続可能な社会へ貢献することが自分のミッションだと語ってくれました。

今回は「地域金融機関の本来の役割」について、その考えに至った背景とともにご寄稿いただきました。満島さんの考えに触れることで、皆さんの地域金融機関へのイメージが少し変わるかもしれません。ぜひご覧ください。

[目次]

1. 研究テーマが生まれた背景
2. 地域金融機関の本来の役割とは
3. 実践者として実現したい未来

1. 研究テーマが生まれた背景

私は生まれ育った京都で人の役に立つ仕事がしたいと思い、京都信用金庫に入社しました。入社から約10年間は、支店で主に企業担当として事業者様の融資相談を中心に活動していました。当時はノルマ営業で目標を達成することで、自分の存在意義を示せました。しかし、顧客の為になっているのかと時には疑問に思うことがあり、そうした中、本部への転勤と同時にSILKが主催するイノベーション・キュレーター塾に入塾して、より「地域金融機関の存在意義」について意識するようになりました。

メガバンクと言われる都市銀行や私が働いている信用金庫など、「金融機関」と言っても大小様々あります。近年はAIやフィンテックといったテクノロジーの発達により変化のスピードが早く、顧客サービスについても年々便利になっています。各金融機関ともそれぞれのミッションがあり、例えばAIで審査を行う金融機関もあれば、対話を通じて事業のサポートをする金融機関もあります。今回の研究テーマとしては、地域に根ざして活動している「地域金融機関」について語っていきます。

店長に抜擢された満島さん、豊中支店のメンバーと榊田理事長。

2. 地域金融機関の本来の役割とは

個人のお客様との関係性に目を向けると、京都信用金庫は一人ひとりの最善の利益を追求し、お金だけではなく「しあわせづくりをサポートすること」が事業の目的の一つとなっています。しかし、金融機関は金融商品の売買に伴う手数料の収益を最大化させることにより、金利低下による資金利益(貸出利息と預金利子の利ざや)の減少分をカバーしています。それは必ずしもお客様のためにはならないこともあり、「利益優先」と「顧客本位」のジレンマに陥ります。顧客のことを考えず、利益だけを追求する姿勢では、地域の方々に必要とされないことは明確です。

現在、地域金融機関は、オーバーバンキング(金融機関が多い状態)だと言われています。各金融機関が過度な金利競争に走ったことに加え、金利の低下が生じたことで金融機関のビジネスモデルが限界にきていると感じます。融資は事業を継続するための大切な手段ではありますが、目的ではありません。「ノルマ営業」を行うことで融資が目的になり、本当に解決しないといけない、大切なお客様の事業課題を見誤ることさえあります。

地域金融機関の本来の役割は、まず地域のお金を地域で循環させることです。また、近年より重要になってきたのは、お金だけではなく事業そのものをサポートすることです。なぜなら、地域になくてはならない事業者の事業継続に貢献することが、地域金融機関の使命であるからです。

例えば、令和2(2020)年11月にオープンした京都信用金庫の「QUESTION」。様々な分野の人が集まり、一人では解決できない「?」を探求する場所として、開業しました。

立地条件もよく外観も綺麗なので施設自体が注目されがちですが、京都信用金庫は、QUESTIONで生まれた人々の出会いから、新たな価値を生み出す仕組みが最も重要だと考えています。この価値は数値化しにくい側面もありますが、「京都信用金庫があって良かったな」と思っていただける共感者が一人でも増えれば、地域にとってなくてはならない存在となるのではないでしょうか。

これからの時代、地域金融機関にはこうした取組が必須であると考えます。地域、顧客、そこで働く職員が「幸福」で持続可能な社会に貢献するという本来の役割を果たすことで、地域にとって不可欠な存在になるということです。

出向期間が完了した今も通う、笠置町での懇親会の様子

3. 実践者として実現したい未来

私が卒塾したイノベーション・キュレーター塾で誓ったことは「社内のインフルエンサーになる」ということです。入塾した頃は、正直なところ「自社が稼いでなんぼや」と思っていました。

しかし、キュレーター塾でビジネスを通じて社会に貢献するゲストスピーカーのお話を聞いて「それは違うな」と学び、“他者のために貢献する”ことのやりがいを見つけました。ノルマではなく経営理念に共感して、自分で考え行動できる人が育つ。そんな組織の必要性を感じています。

そんな中、私は自らの実践として笠置町へ出向しました。笠置町の人口は令和2(2020)年11月現在で約1,250人。高齢化率50%で「限界自治体」と呼ばれるようになりました。将来の日本の課題を先行した地域とも言えます。まさに持続可能性の危機に面している地域ですが、教科書にも載っていない課題にチャレンジしたい、笠置町の為に微力ながらお役に立ちたいと考え、自ら手を挙げて出向を希望しました。

私はコンサルでもなく、これといった問題解決の手段を持ち合わせていません。そこで私は「この町の人々は笠置町の将来をどう思っているんだろう」ということを考えました。一人でも多くの人にヒアリングし、そのために役に立つことを行動しようと決め、このミッションを実現するために半年間、笠置町に移住しました。そこでわかったことは、住民の皆さんが素晴らしい文化、自然、そこで暮らす人々を大切に思っているということです。

数字のデータ(人口減少や高齢化率)だけを鵜呑みにして手段を講じると、課題を見誤ります。この経験から、「対話すること」で「地域の人々の思い」に共感し「実践すること」が極めて重要な手段であると気づきました。

現在、勤務している豊中支店でも、通じるところがあります。「地域が抱えてる課題は何だろう」と考えると、自分では予想していなかった人との出会いが生じます。この出会いを通じて「私や京都信用金庫としてどのような貢献が出来るだろうか」と考える日々を過ごしています。

一緒に働く職員に対しても同様で、仕事を通じて地域貢献する喜びを感じる職員を、たくさん増やしていきたいです。まだまだ課題はたくさんありますが、今の仕事における自分のミッションは、「地域」「顧客」「職員」に幸福を感じてもらうこと。それが、持続可能な社会への貢献につながると考えています。具体的な例をあげると、役場や町の関係者との仲介役として、事業者が企画したイベント「クリエイターズキャンプ」の開催をサポートしました。多様な人々が笠置キャンプ場に集まり、自然を感じながら対話を広げる1日になりました。

私一人で出せるインパクトには限界がありますが、組織でインパクトを出せば地域にとって強烈なメッセージにもなると思いますし、そのような職員を一人でも多く輩出することが、私の実現したい未来です。


 

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満島 孝文

満島 孝文

京都信用金庫 豊中支店 支店長

平成18年京都信用金庫入社。本店、伏見支店にて営業担当、その後本部にて勤務。本部所属時に「イノベーション・キュレーター塾」入塾。イノベーション・キュレーター塾1期生。本部勤務後、京都府南部の笠置町役場へ出向、現地に移住し、まちづくり企画担当として半年間勤務。令和元年10月、新店舗オープンの立ち上げメンバー豊中支店準備室長を任命され、令和2年11月、豊中支店をオープンし支店長として従事。プライベートでは豊中市の「豊中市地域創生塾」へ入塾し、地域の方と共に豊中市の社会課題解決の為活動を続けている。