インタビュー企画「ピンチをチャンスに!」【第11回】太田 絢子さん | 無鄰菴 管理事務所
第11回は、無鄰菴(むりんあん) 管理事務所 所長の太田 絢子さんです。
無鄰菴は、京都市東山に位置する、明治時代に造園された政治家・山縣有朋の別荘です。現在は一般公開されており、国指定の名勝となっています。何気なく無鄰菴に立ち寄った際、綺麗に手入れされたお庭と静寂な空間の中で、個性を活かしていきいきと働かれているスタッフの方との出会いがありました。ここはなんだか面白い場所だという直感に従い、改めて訪問させていただくことに。「文化財の運営管理には主体性が必要」という強い姿勢や「文化財の管理運営を通じて、日本庭園の価値を世に広く伝えていきたい」という思い、実践例を聞くことができました。多くの施設管理者が場の運営に悩んでいる中、少しでもヒントになればと思い、今回の企画を依頼しました。
「庭に集い、庭をはぐくむ」というミッションに基づき、コロナ禍でもチャレンジを続ける運営スタイルに注目して、是非ともご一読ください。
Q: どんな事業をされているか、簡単に教えてください。
太田: 京都市所有の文化財の指定管理事業者として、文化財に指定された施設の保存と活用を両立させた運営をしています。具体的には国指定名勝である「無鄰菴」と国指定史跡の「岩倉具視幽棲旧宅」の2か所を担当しており、2021年で従事して6年目になります。名勝と史跡という違いはありますが、その場に集い、ともに育んでいくことを心がけています。それぞれの施設が持つ文化財としての本質的な価値や魅力を来場されたお客様に伝え、また来たいと思っていただける魅力的なサービスを提供すること、施設の文化財としての保全とバランスが取れた運営をすることが、主な業務です。
Q: 新型コロナウイルス感染症による影響はありますか?
太田: 2020年4月の緊急事態宣言の発出に伴い、45日間の臨時閉場がありました。再開場後も、お客様の数は前年と比較すると3割程度まで減少しています。自主事業として実施しているイベントも、参加人数の制限など運営方法の大幅な変更が必要になりました。また、運営体制についても、時差出勤やオンラインミーティングの導入などの影響がありました。これまで対面でできていたコミュニケーションや情報共有のあり方を模索することになりました。一方、オンライン決済による事前予約制入場を導入したことで、少人数制のより細やかなサービス提供が可能になりました。顧客満足度や単価の向上など、新しい試みの効果も感じています。
Q: 影響を受けて新たにチャレンジしたことと、その中で見えてきた課題や解決策を教えてください。
太田: 施設運営面では、施設のキャパシティに合わせてソーシャルディスタンスを保てる人数設定をする必要が生じました。そのため、複数名でのご来場を想定したこれまでの価格設定では、収支のバランスをとることが難しくなりました。そこで、時間枠ごとに参加できる組数を限定し、同じグループで複数人が参加できるイベントを導入しました。
直近では、新成人を対象とした成人式の撮影会を、1月11日に無鄰菴で実施しました。時間ごとの参加枠が1グループのみであることから、参加者の方の安全面・サービス面の満足度も高く、収支バランスも取れた成功事例となりました。ちなみにこの企画は、無鄰菴で従来より実施していた、閉場後の1組限定の施設利用を参考にしたものです。
併せて運営体制もシフトを変更し、少人数制に切り替えました。体制変更のために、それまで一人ずつに割り当てていた業務を全体で共有し、チームで効率よく進めていけるようにしました。新しい担当業務が増えることへの一部スタッフの戸惑い、対面で接する機会が少なくなる中での進捗状況や引き継ぎなどの情報共有など、課題は多数ありました。そこで、チームとして目指す方向性を繰り返し伝え、その中での個々人の役割や期待できる成長について、面談を数回実施することにしました。全員がより高いスキルと意識をもって、チームとして成長する機会となったのではないかと感じます。
Q: ピンチをチャンスに変えるために心掛けていることは何ですか?
太田: 課題解決のために現状を変更することを恐れない、ということです。そして、課題を乗り越えることで自分たちが目指す姿を常に意識すること。また前述の2点を常にチームで共有し、それぞれの認識の違いを超えつつ、同じ方向を向いて進んで行けるようにすることです。施設運営の仕事は常に業務内容が変化するため、こうしたことは恒常的に心掛けています。
Q: 最後に一言!(これから行いたいチャレンジ、読者へのメッセージ等)
太田: 再開場後、両施設ともに、来場されたお客様より「豊かな時間を過ごせた」「来てよかった」とのお声をいただく機会が多くありました。文化財の魅力とそこでの体験が人を力づけ、癒すことを、これまで以上に実感しています。今後も、折に触れて繰り返し訪れたいと思われる施設運営とサービス提供を目指し、スタッフ一同で取り組んで参ります。
写真:©植彌加藤造園 撮影:相模 友士郎
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