社会(化)見学 参加者レポート|12/4(金)、5(土)株式会社寺田本家
平成27年12月4日(金)~5日(土)にかけて、千葉県神崎(こうざき)町にある寺田本家さんへのスタディーツアーに参加しました。事業所やまち全体を視察する中で、移住・定住に関すること、農業に関すること、地域の子どもたちとのワークショップに関すること、そして組織に関することなど、いろいろな職場で参考になりそうな取組をたくさん見せていただきました。
◆ コーディネータ但馬氏について
今回の社会(化)見学は、homeの但馬氏のコーディネートにより開催されました。経営者と深い付き合いのある但馬氏ならではの視点で、ご本人からは語られなかった寺田本家さんのこれまでの歩みを聞かせていただき、最初と最後に参加者同士の意見や思いの共有を図ることで、学びが深まったように感じます。但馬さんからの「問い」は、参加された経営者や私たち行政にとって、とても大事なことを考えるきっかけになりました。
◆ 寺田本家さんでのお話
<寺田優さんからの講話の中で印象的だったこと>
・千葉県で一番人口が少ない町、神崎町にある、創業340年の酒蔵。昔ながらの手作業で「本来の酒造り」を実践しています。無農薬、無添加であることはもちろん、「いろんな菌が存在し、その調和によって発酵が進む」という考え方のもと、活躍しない菌や悪い菌も受け入れていく多様性への受容をもとにした発酵場を大切にしておられます。
・寺田本家は、先代23代目の頃、規模や効率を求めた経営戦略野結果、大きな経営危機に陥った時期があったそうです。倒産寸前になったとき、恩師からの「あなたのお酒は誰かの役に立っていますか?」という言葉に一念発起。「お酒を通して、人々の健康や幸せに貢献したい」と強く思うようになり、その後、原点に立ち返り、無農薬の米や無添加製法で可能な限り昔と同じ手作業での日本酒作りに取り組むこととなりました。今では全国ファンがいらっしゃり、年1回のお祭りである「お蔵フェスタ」には5万人もの来場者が集まるほどの盛況になるのだとか。(ちなみに、町の人口は約6,000人だそうです。)
<優さんとの質疑応答>
Q.菌の中にはいい菌と悪い菌がいて、どちらでもない菌もいるという話だったが、どちらでもない菌がいい菌・悪い菌に変化するきっかけは何か?
A.環境が大切。菌が活動しやすい環境をいかに整えるか、環境次第では、どんなにいい菌も活動できないし、悪い菌が増えてしまう。
一方で、いい菌か悪い菌かを人間の判断で決めつけてもいけない。いい菌も悪い菌もすべて受け入れて、それぞれの持ち味を活かして変化し続けていくと、全体としていい発酵になっていく。多様性を受け入れることも重要。
Q.無農薬などにこだわると、原価も高くなると思うが、資金繰りやお金のことについてはどのように考えているのか?
A.以前は普通の米(農薬あり)を使っていたが、無農薬米に変えてから米の原価は3倍になった。一方で、寺田本家には営業の社員がいない。広告宣伝費もかけていない。そこで売価を抑えられている。自然発酵の味を好きになってくれた人や、寺田本家の酒造りに共感した人が宣伝してくれて、全国にファンが広がっている状況。
商品のコンセプトを変えたことをきっかけに、値引きもやめた。それをきっかけに、取引がなくなった会社もあるが、逆に今取引がある会社は自社のコンセプトに共感してもらったうえでの取引ができているので、以前よりもお互いに信頼感が強いと感じている。
Q.寺田さんにとって発酵とは?
A.変わり続けること。しかも、良い方に向かって変わり続けること。色々な人が関わる中で、それぞれ居心地のいい場所で、無理せず楽しみながらかかわり続けることで、人もまちも発酵していくと思う。
<神崎町役場の方からのお話>
「楽しいことを、ちょっと勇気を出してやってみよう!時は待ってくれない」
~何をするにも、何かやるときには勇気が必要。でも、思ったときにやらないと、チャンスは待ってくれないのだから、ちょっとだけ、勇気を出してやってみよう。そもそも楽しいと思えることじゃないと続かないしね~
→神崎町役場の職員の方が、座右の銘にしている言葉、とのこと。まちづくりに必要な人材を例えるときに「わかもの、ばかもの、よそもの」が重要だといわれているが、事業者と行政職員が一番の「ばかもの」になって、わかものとよそものを巻き込んでいきたい!と力強く語っておられました。
→役所内部では「次は何をやるのか」と、時に温かく、時にひやひや見守られているそうですが、町民の「本気でやりたい!」に応え、地元の元気を作るために邁進する神崎町役場の方が、とても素敵に見えました。
◆ 思ったこと・感じたこと
・移住してきた人のほとんどが、いきなり移住ではなく、寺田本家を中心に、神崎町へ何度も足重く通う「理由」がありました。
私たちは行政の立場で、「移住してほしい、来てほしい」と考えますが、どこの田舎でも食べ物が美味しい・人が優しい、は共通事項。実際に来てみて、「このまちが好き」「ここにいる人が好き」「このまちに住みたい」と思ってもらうために、いろんなかたちで水俣に来る「理由」を作ってあげて、何度か通ってみてネットワークなど作った上で移住するほうが、その人にとっても水俣に住む市民にとってもいいことなのかも知れないと思った。
・今回、寺田本家さんに伺ったみなさんは、口を揃えて「居心地の良い空間」だとおっしゃっていました。寺田さんが大事にしていた、「多様性を受け入れる」こと。簡単そうで、実はとっても難しいことではないでしょうか。常に周りの人を意識し、感謝の気持ちを持っている、あらゆる出来事に、ありがとうを忘れない。小さいことかもしれませんが、“考え方を変えてみる”ことでふっと楽になり、居心地の良い場所がそこにできるかもしれませんね。