withコロナ時代に求められる人材は?│大室所長の研究会レポート
「よくわからないことばっかりで……」
「スライド3枚目くらいから、全然ついていけませんでした」
「withコロナというタイトルでしたけど、コロナの話って全然なかったですよね」
後半のディスカッションを前に、参加者の方々が口にしていた言葉たち。進行役からディスカッションのテーマを聞かれた所長の大室自身も、「特に決めなくていいです。さっきの話を聞いてわからなかったことを、皆で出し合ってみてください」と言っていました。
「CPO(最高哲学責任者)」「脳を止める」「答えを出さずに耐える」「個人の中の多様性」
耳慣れないキーワードを次から次へと浴び、渦を巻く思考の中、光を目指して泳ぎ続けたような……あっという間の90分間。ZOOMを退出し、イヤホンを外した時に感じたのは、なぜか、あたたかく前向きな気持ちでした。
2020年8月25日に開催されたオンラインイベント「withコロナ時代に求められる人材は?」。まずはチェックインを兼ねて、参加者の皆さんに「タイトルから想像する人物像をチャットに書き込んでください」というお願いをしました。その一部がこちらです。
手を差し伸べる人材
楽天的な人
変化を楽しめる人
周りにまどわされず、自分で問いをたてられる人材
想像力がある人
変化を可視化できる人
たくさんの書き込みをいただき、画面越しに、場があたたまっていくのを感じます。皆さんの期待を一身に受け、大室がお話を始めました。出だしからスピードは全開。40枚以上あるパワーポイントのスライドが、目の回るような速さでめくられていきます。
ここからは、いくつかのキーワードを拾い上げてご紹介したいと思います。終始一貫して「わからない」が飛び交ったイベントをご紹介するこの記事は、きっと、よくわからない内容になると思います(こんな宣言を記事上でするのは初めてです……)。読んでモヤモヤを抱えてしまわれた方は、ぜひ次回以降の研究会にご参加いただき、大室に問いをぶつけてみてください!
・自分自身を透明人間にする
大室: 人間のあり方を考える時には、自分自身をどのように捉えているか、ということが重要です。人は、描いている自画像の通りに行動します。自分の捉え方が変われば、行動が変わるんです。そこで大事なのは、いかに自分を、瞬間的に“透明人間”にできるか。つまり、判断のフレームを外した状態で相手や事象を見ることができるか、ということです。働くことと生きることを分けてしまうと、ここでいう“透明”にはなりにくいですね。
・見えていない世界の存在
大室: 世界はダイナミックに動いていますが、我々の認知能力では過去のことしか捉えられません。現在進行形の世界は、見えていないんです。その見えていない世界を捉えないと、新しい変化は生めません。過去のデータベースだけを元に考えていても、イノベーションは起きない。だから、ビジネスにも、哲学やアートが求められるようになっています。CPO、つまり最高哲学責任者、という役職をつくる企業も増えていますよね。
・イノベーションを主導するのは、企業ではなく市民へ
大室: これからのイノベーションは、多様な人たちとのコラボレーションの上にしか成り立ちません。1つの企業だけで変化を起こすのは難しいです。大学や行政、中小企業、大企業、起業家などが互いに関わりながら動くことが大事だし、さらに、その動きを主導するのは市民・ユーザーです。本当のニーズを持っているのは彼らですから。そして、社会課題の解決は、もうソーシャルビジネスに携わる人たちの専売特許ではなく、イノベーションの前提条件になっています。
・クリエイティブを阻害する7つのバイアス
大室: 災害などの非常事態に、心を平静に保とうとする「正常性バイアス」は有名ですね。他にも、自分の信じることを意味づける情報のみを集める「確証バイアス」や、過去の事象を予測可能であったかのように見る「後知恵バイアス」など、様々な傾向が、脳の認知の仕組みとして存在します。私たちが創造性を発揮するためには、これらのバイアスに抗わなくてはいけません。
・脳を止めると、内臓感覚からアイデアが生まれる
大室: 我々は脳が思考の根源だと思っていますが、内臓も感覚器官の1つであり、内臓の感受性から内的な感情が生まれるとも言われています。また、脳には意識的に活動していない時に働くネットワークがあり、脳を止めると、その働きによってひらめきが起こります。似た考えとして、睡眠や入浴中のような身体を忘れた状態を「憶」と呼び、この時もアイデアが生まれやすいです。ベッドやお風呂で良いアイディアが浮かんだ経験が、皆さんにもあるんじゃないでしょうか。
・アート思考とは、社会の歪みを世の中に問うこと
大室: 芸術とは真理・真実・真相を創造的に保存する営みであり、そこには意図や目的、因果関係はありません。アート思考は、ほとんどの人が気づいていない社会の歪みを見つけ出し、世の中に問うことなんです。ノーベル賞受賞者には、芸術的な趣味を持っている人が多いというデータがあります。さらに興味深いことに、その内容は絵画や工芸よりも、演劇やダンスなどのパフォーマンス系が多いそうです。演劇などは芸術の中でも、より「見えていない世界」を扱っていますよね。
・答えを出さず、わからないことに耐える能力
大室: 人は誰でも「わかりたい」という気持ちを持っています。ものごとが複雑で不確実になるほど、脳が答えを求めてしまう。しかし、安易に答えを出すと、思考が発展せず止まってしまいます。答えを出さないまま、わからないまま耐える能力を、ネガティブ・ケイパビリティと呼びます。
・アントレプレナーの7つの要件
大室: ここに挙げた7つのうち、特に③〜⑤は今まではあまり重視されてこなかったけれど、僕は大事な要素だと思いますよ。繊細かつ大胆な人が、今の時代には必要です。
① 思索できる人→考える力を持っている人
② 複雑な思考の人→簡単化しないで、説明しようと努力する人
③ 内省できる人→自分ごとにし、常に自分を省みることができる人
④ 心配性→不安を持ち、それを克服しようととことん努力できる人
⑤ 繊細な人→細かなところに気付ける人→セレンディピティ
⑥ 利他的行動を嫌がらない人→利他性は認識バイアスを削除する
⑦ 行為することを厭わない人→仮説に基づき、行動できる人
あっという間に30分が経過し、大室の話は終わりました。大量のキーワードと「?」マークがそれぞれの頭に浮かんだところで、4〜5名ずつグループに分かれて会話する時間に突入します。(ZOOMのブレイクアウトという機能を使いました。)わからなかったことを共有しながら、少しずつ話が発展していきます。
「脳を止めるって、どういうことやろう……?」
「コロナ禍で『元の世界に戻して』と願うのではなく、未知の世界でどう生きていくかを考えないといけないですね」
「仕事の中で自己実現をするって、どうなんでしょうか」
最後はまた全員が集まる画面へと戻り、それぞれの問いを共有しました。その中から、印象的だった2つをご紹介します。
Q: 今日お話いただいたことは、リーダーに求められること、という理解で合っていますか?
大室: リーダーだけじゃなく、全員です。企業家にも限りません。市民全員ですよね。最近、色々な経営者が「サラリーマンはいらない、自営業者の集団を作りたい」と言っています。大学生にも、どんな企業に就職するにしてもアントレプレナーシップは必要だと常々伝えていますし、お母さんたちにもイノベーターであってほしいと僕は思います。
Q: 言語化しないことが大事だとおっしゃっていましたが、一方で、仲間を集めようと思うと思いを言語化したくなります。そこの矛盾はどう考えればよいでしょうか?
大室: 言語化しないと集まらないようであれば、集まらなくていいですよ。SILKは、6年前に「ソーシャル・イノベーション」をキーワードに掲げてスタートしました。当時はこんな言葉、誰も使っていなかったから。よくわからないことを楽しめる人たちを集めたかったんです。ただ効率的、合理的に組織を回したい時はわかりやすく言語化したらいいと思いますが、変化を求めたい時にはそれではだめです。
終了時刻を過ぎてもアフタートークが止まらず、楽しく刺激的な時間がしばらく続きました。個人的に、オンラインイベントにまだ慣れておらず緊張もあったのですが、皆さんと場の空気感を共有できたように感じ、嬉しかったです。第2回「大室所長の研究会」は、9月29日(火)19:30から開催します!詳細はfacebookもしくはpeatixをご覧ください。皆さんのご参加、お待ちしております。
写真・文:柴田明(SILK)