インタビュー企画「ピンチをチャンスに!」【第9回】荒川徹さん | 株式会社京都紋付

企画主旨

第9回は、株式会社京都紋付 代表取締役 荒川 徹さんです。江戸時代より礼装とされてきた紋付は、黒ければ黒いほど上質とされています。京都紋付さんは黒一筋で長年培ってきた技術をさらに磨き、「深黒(しんくろ)」という加工技術を生み出しました。この深黒の技術をもって、洋装部門においても究極の黒を実現し、衣服の染め替えサービスもされています。

「SDGs」や「サスティナブル」という言葉の認知度が高まっている中、京都紋付さんの取組を通じて、サスティナブルなファッションとは何か、考えてみませんか。資源を無駄にしないための取組として3R(Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル))のほか、アップサイクルという選択肢があります。京都紋付さんは、シミや色褪せにより着なくなった衣類を処分するのではなく、「漆黒」に染め直し、「漆黒」を楽しみながらさらに長く愛用する、という選択肢を提供されています。コロナ禍では新たな取組の準備を着々と進められていました。

是非ご一読ください。

Q: どんな事業をされているか、簡単に教えてください。

荒川: 当社は1915年より、京黒紋付染で黒色を極める事に専念している会社です。30年ほど前は、業界全体で年間300万反を染めていた黒染ですが、現在では年間1万反を切り、150事業所ほどあった京都黒染協同組合の組合員も12事業所までに減少しました。そのような状況を受け、当社では2000年から、黒紋付だけではなく、洋装、特に有名アパレルメーカーとのコラボレーションに挑戦し始めました。新たな市場を開発することで、紋付の技術の継承を図っています。また2013年から、WWFジャパンとの共同プロジェクト「パンダブラック」でいち早く衣類のアップサイクル事業にも取り組んでいます。「着られなくなった大切な服。黒に染めてもう一度着ませんか?」のキャッチフレーズの元、SDGsの実現に寄与しています。

左側が深黒加工を施した生地、右側が黒染めのみ

時代の変化により、「物を廃棄する」文化から「物を大切にする」文化への変容が起こっています。私たちも、衣類の再生をさらに進化させ、物を大切にするためのプロジェクトを生み出しました。具体的には、メーカーが販売する衣類に「この製品は、黒染めで染替え可能です」と表記したタグをつけ、汚れた時などには黒染めで再生する事を勧めています。さらに、タグに記載されたQRコードを読み込むと黒染めした画像が見える仕組みを開発し、現在アパレルブランドに提案しています。

Q: 新型コロナウイルス感染症による影響はありますか?

荒川: 京黒紋付の事業は、習慣の変化やお葬式の簡素化などの影響により、年々加工数量が減少しています。そこにコロナで拍車がかかり、今後もさらなる減少が考えられます。残念ながら、組合の存続が危ぶまれる状況になってきました。

それとは逆に、黒染めで衣類を再生する事業「Kプロジェクト」は依頼が増えています。コロナにより在宅の機会が増え、世の中の価値観が大きく変化しています。人間の生き方、自然との調和、SDGsの取組などへの関心が高まり、アップサイクルを実現する染め替え事業の追い風になっている気がします。

ビフォーアフター(アンリジャケット)

ビフォーアフター(アンリジャケット)

ビフォーアフター(デニム)

ビフォーアフター(デニム)

Q: 新型コロナウイルス感染症による影響を受けて新たにチャレンジしたことと、その中で見えてきた課題や解決策を教えてください。

荒川: コロナ禍の中、人の動きが大幅に減り、苦しんでおられる企業が数多くあります。弊社も別会社で飲食業を2店舗運営していたのですが、一店舗を早々に閉店しました。
そのような状況下において、BtoCのビジネスをされている会社と弊社の染め替え事業とのコラボレーションを、9月6日(黒の日)からスタートする予定です。現在、一般消費者からの染め替えの受注は、当社のWebサイト、もしくはクリーニング業などの代理店を通して行っています。今回のプロジェクトでは、染め替えのプラットフォームを増やすために、ご協力いただける方を募りました。一社ごとにURLを発行し、そこから染め替えの申し込みがあると、各企業様の販売促進にもつながる仕組みを構築いたしました。黒く染めて再生した商品を納品する際に、窓口になってくださった企業様のクーポン券を一緒にお送りします。クーポン券の費用は弊社が負担します。衣類のアップサイクルに関わっていただくことで、企業様にとってはSDGsへの貢献にもなっています。

Q: ピンチをチャンスに変えるために心掛けていることは何ですか?

荒川: いつも物事を明るくポジティブに考えて、できるだけ楽しく夢をもって仕事をすることにしています。

ピンチは幾度となくありますが、乗り越えることでチャンスは生まれると思いますし、考え抜けば何とかなると思います。自然といつかはピンチでなくなり、チャンスが生まれると信じています。

Q: 最後に一言!(これから行いたいチャレンジ、読者へのメッセージ等)

荒川: 世の中の衣類に「染め替え可能」と書かれたタグがつくことが、当たり前になることです。「シミや汚れが取れない衣類は、黒染めで再生できる」という概念が常識になり、廃棄される衣類が削減され、京黒紋付染めの技術が後世まで継承されるよう挑戦を続けていきます。


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荒川 徹

荒川 徹

株式会社京都紋付 代表取締役

生年月日 1958年10月10日生まれ

最終学歴 1981年4月 甲南大学 文学部社会学科 卒業

職歴 
1983年9月  ㈱京都紋付 入社 
1996年2月  ㈱京都紋付、(有)キョウモン 代表取締役社長に就任
  2003年3月  洋装事業部設立
  2001年11月  平成21年度伝統的工芸品産業功労者経済産業省局長賞受賞
  現在に至る