廃業した銭湯をレンタルスペースに。空き家問題にビジネスで挑む。
「九条湯」は、2008年に廃業した銭湯をリノベーションしたユニークなレンタルスペースです。長年放置されていた建物を新しい場として蘇らせたのは、合同会社猪べーしょんハウス 代表 猪飼 仍之(いかい なおゆき)さん。空き家を活用したまちづくりや、多様な人が集う心地よい空間づくりについて、お話を伺いました。
細い路地を進んでいくと、突然「男」「女」の札と立派な門構えが現れます。『未来の西京まち結び〜みらまち結び〜スタディツアー』の会場、レンタルスペース「九条湯」です。
九条湯に出会って、私の人生は変わりました
続々と集まってきた参加者の方々は、タイル絵や古い鏡広告、番台など、銭湯の設備をそのまま活かした内装に興味津々の様子。どんなお話が聞けるのかと期待感が高まる中、まずは皆さんに自己紹介をお願いしました。まちづくりに関わる企業や団体の方だけでなく、大学生や理学療法士の方もおられ、個性豊かな顔ぶれと共にイベントがスタートします。
迎えてくれたのは、空き家問題をビジネスで解決していきたいと、仲間と3人で2016年に合同会社猪べーしょんハウスを立ち上げた猪飼さん。現在、伏見区と山科区でもシェアハウスやコミュニティスペースを運営しています。
猪飼: はじめに九条湯の相談を受けた時は、雨漏りもあったし、床や壁もボロボロの状態でした。相続を終えた新しい家主さんは、銭湯の再開は考えられず、とても悩んでおられました。取り壊しも選択肢に入っている状況で「何か考えてもらえませんか」と言われて、「なんとかします」と再生プロジェクトが始まったんです。ここは銭湯の中でも大きくて建物も立派なので、どう活用するか、かなり迷いました。90年前の増築の記録が最も古くて、それ以前のことはわからないのですが、宮大工さんが建てたらしく造りはしっかりしています。
地域に根付いて活動をしていこうと、ご自身も東九条に住まいを移したという猪飼さん。「九条湯に出会って、私の人生は変わりました」とおっしゃいます。運命と呼びたくなるような数々の出会いに支えられながら、九条湯をコミュニティの場として生まれ変わらせ、収益を上げる方法を模索してこられました。
猪飼: たまたま銭湯を改装した西陣のカフェで働いている知り合いと再会して、タイミングよく相談することができたんです。建物のリノベーションも、現場で傷み具合を見ながら行き当たりばったりで工事を進めてもらう必要があり、そんな人が見つかるのかと心配していました。ところがまた偶然にも、友人のお父さんに同じような施工の経験があるとわかり、引き受けてもらえることになりました。バースペースを作ったのも「ここで立ち飲みしたいね」という友人の一言がきっかけに。
これらの出会いや偶然のおかげで今の九条湯ができたので、とても感謝しています。人とのつながりができた時に、相手に何をしてもらうかではなく、自分が相手に何を提供できるかを最初に意識するようになりました。
おもしろいことを、ぜひ一緒にやりましょう!
九条湯のパンフレットの表紙には「あなたならここで何をしますか?」と書かれています。猪飼さんの話の中には何度も「おもしろいこと」という言葉が出てきました。
猪飼: 九条湯自体が場所としておもしろいと思うので、ここでどんなことをしたいかを自由に考えてもらえたら嬉しいです。それがおもしろいことだったら、ぜひ一緒にやらせてほしい。僕が趣味で集めているボードゲームが2階にたくさんあって、なかなかマニアックなボードゲームイベントを開催したりもしています。
隣の建物を宿泊スペースにしたので、そちらでしっかり収益を出して、ここは色んな人にイベントをしてもらえる場にしたいんです。場を継続していくにはもちろんレンタルスペース単体での収益化も大事なのですが、大家さんも「収益のことばかり考えるんじゃなく、おもしろいことをやってほしい」と言ってくれています。これからの時代、色々な仕事が機械に置き換わっていきますよね。半分遊びのような仕事が稼ぐ手段になっていくと思うんです。
これから地域の人たちとの関係を広げていきたい
お話の後は2階の和室やバーカウンターが設置された女湯をぐるりと巡り、九条湯の“おもしろさ”を身をもって感じることができました。男湯と女湯を隔てる壁から反対側をのぞき込む人もちらほら。席に戻った参加者の方からは、こんな質問が。
参加者: 時代の流れとして、地域のコミュニティが弱くなっていっていますよね。この場所が地域の新しいコミュニティになっていくといいなと思うのですが、地元の方はどれくらいイベントなどに参加しているのでしょうか?
猪飼: 正直なところ、今はまだWebを見て来てくれる方がほとんどで、ご近所の方にはあまりご利用いただけていません。この地域は年配の方が多く、Webは見ておられないと思います。銭湯の営業を再開したと思って、お風呂に入りに来られた方はいましたけど(笑)。方針として、無料で地域の寄り合いにお貸しするようなことは考えていないんですけど、この1年は立ち上げと運営に必死であまり外に出られなかったので、これから少しずつ地域の方々と関係を作っていきたいと思っています。
「『やりたいことを実現している人』が京都でイチバン多い区に!」というテーマで活動してきた、未来の西京まち結び〜みらまち結び〜。今年度最後のイベントは、西京区役所 木村係長のコメントで締めくくられました。
「毎回たくさんの方にお集まりいただき、運営メンバーが想定していなかったような地域課題がたくさん出てきました。皆さんが想像以上の意欲と行動力で取り組んでくださり、具体的な動きが多数生まれたことを嬉しく思っています。私たちも非常に勉強になりました。西京区の取組は次年度以降も続いていくので、引き続きよろしくお願いします。」
終了後も、初対面とは思えない親しげな雰囲気で参加者の方々が色々なお話をされていて、その盛り上がりに人と人をつなげる「場の力」を感じました。猪飼さん、どうもありがとうございました!
九条湯では、毎月ユニークなイベントが開催されており、演劇やライブが行われたこともあるそうです。ぜひWebサイトをご覧になってみてください。
https://kujoyu.com/rentalspace/
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