働き方改革を阻むものは何か?常識を疑うことの大切さ│京の企業「働き方改革チャレンジプログラム」合同研修Day3レポート

7月から始まった京の企業「働き方改革チャレンジプログラム」。早いもので、全社が集まる合同研修はこれが最後となりました。この日は有限会社モーハウス 代表取締役 光畑 由佳さんにお越しいただき、子連れ出勤を題材にワークショップを行いました。

設備投資も制度改革もほとんど必要ない子連れ出勤。「なぜこんなに簡単にできるのに、普及しないのか?」光畑さんから投げかけられた問いが、各社の働き方改革を阻む要因を考えることにつながっていきます。

(以下、敬称略)

※子連れ出勤をはじめとする光畑さんの取組については、「ここで働きたい!!」と思われる組織を作るには│京の企業「働き方改革チャレンジプログラム」実践セミナーレポートにて詳しくご紹介していますので、ぜひご覧ください。

部署や立場による不公平感を、どう解消するのか

この日のワークショップは「自分たちの組織が子連れ出勤を導入するにあたっての課題と解決策を考えてみよう」という問いから始まりました。

課題の例として、最初に

・経営層に対するメリットの訴求
・「食わず嫌い」層への対応
・コストの問題
・不公平感への対策

の4つがあげられました。中でも参加者の皆さんの注目を集めたのは「不公平感」。モーハウスさんは社内で子連れ出勤を実施されているだけでなく、企業の子連れ出勤導入を支援するコンサルティングも行っています。コンサルタントの波多野禎さんもご一緒に、導入企業の事例を交えながら皆さんの疑問にお答えいただきました。

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参加者: 子どものいない人への負担や、子どもが欲しくても授からなかった人への配慮はどのようにされていますか?

光畑・波多野: 人事の方とお話しさせていただく時にその点は必ず話題になります。導入前にチームの中で必要性やメリットを説明しながらディスカッションをしていただくなど、私たちも周囲の方への配慮にはかなり気を遣っています。そして、おっしゃる通り、お子さんのことでお悩みの方については特に配慮が必要です。こればかりは心情的な問題なので、人事担当者とその方との面談を設定して、もやもやする気持ちを話していただくなど、時間をかけて丁寧にフォローをすることが大事と思っています。

私たちの会社にも、事情があってお子さんを諦めざるをえなかった方もいましたし、お子さんを亡くされた方もいました。そういった方々の中には、その分周りのお母さんたちを応援したいと思っていらっしゃる方も実は多いんです。ただ、子どもがいない人にばかり負担がかかる状況が続くと、不満やストレスが勝ってしまいます。一方的に我慢させるような環境にしないためには、お子さんを連れてくるお母さんにプロ意識を持ってもらうことも大切です。

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リスク対策はしっかり。まずは、支障のない範囲でやってみる

参加者: 飲食業や製造業の場合、事務職は子連れ出勤ができても厨房や工場は危ないので子連れで働くことができません。部署によって不公平になると導入は難しいと思ってしまうのですが、その問題はどのように解決されていますか?

光畑・波多野: 私たちがお手伝いしたチョコレートのメーカーさんでも、やはり工場では子連れ出勤ができないので不公平を心配する声があがりました。でもよく考えると、1つの企業の中でも部署によって働き方は様々なので、子連れ出勤に限らず全員が同じように享受できる働き方改革なんて不可能なんです。不公平だからできないと言っていたら、何もできなくなっちゃいます。部署やチームごとに適した方法を議論して、導入していくべきだと思います。

今、医師不足が問題になっていますが、実は20年くらい前までは赤ちゃんをおんぶして診察したことがあるわよ、とおっしゃる医師も、1人や2人じゃなくお会いしたことがあります。今は難しいとは思いますが。多分皆さん今、瞬間的にお医者さんはさすがに無理だろうと思われたんじゃないでしょうか。無理そうなことでも、実は無理じゃないかもしれない。決めつける前にやってみたらいいと思うんです。「やってみる」だけならお金もかからないし、リスクのない範囲でできますよね。やってみて無理だったり、大変だったら、やめて違う方法を探せばいいんです。

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参加者: ケガなどのトラブルが心配です。何かあった時に誰が責任を取るのかという問題もあります。一方で、会社の中で育った子どもが会社のことを好きになってくれたり、インターンシップのように将来の就職につながったりするといいなと思いました。

光畑・波多野: 安全確保は何よりも大切なので、子どもに触らせてはいけないものや持ってきてはいけないものなど、事前にルールをしっかり決めることが大事です。ケガや破損に関しては、必ず従業員も会社もお互いに保険を利用してカバーできるようにしています。従業員は子どもが会社の物品を壊してしまった時のための保険に、企業は建物の中で子どもがケガをしてしまった時のための保険に必ず入ってもらいます。

時々小学生の子どもが来ることもあるのですが、彼らにも仕事を手伝ってもらいます。荷物を運ぶとか簡単なことですが、喜んでやってくれますよ。役に立てるのが嬉しいみたいです。

これは私の感覚なのでエビデンスのある話ではありませんが、親の仕事場を知ると、子どもは安心するのか、熱を出したりすることが少なくなるように思います。仕事場を知らない子どもにとっては、保育所通いはお母さんが自分を置いて知らないところに行ってしまうという状態ですよね。行かないでほしいという思いが強くなって、熱を出して引き止める、ということもあるように思うんです。でも仕事場が自分の知っている場所になると、大きくなってからも安心して保育所や学校に通えるような印象があります。

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常識を疑う。無理っていうけど、いったい誰が決めたんですか?

参加者: いきなり月末などの繁忙期に子連れで行くのは難しそうですが、土日であれば来客が少なくて事務作業だけをすることが多いので、そういう日にやってみるのはいいなと思いました。

光畑・波多野: 土曜・日曜は学校や幼稚園がお休みなので、シフト調整に苦労されている企業が多いです。そこで子連れOKの短時間勤務という選択肢ができると、企業側と親御さん、双方にとって良いのではないでしょうか。サービス業であれば、お客さんに対して「こういった考えで土曜日は子連れ勤務をしています」というアナウンスをすることで、理解してもらえることもあると思います。新聞記者の男性が土日に子連れ出勤をしているという話はよく聞きますね。最初は業務日数にカウントしない形で子どもを慣らしてから、本格的にスタートする流れがおすすめです。

参加者: 本人の不安も大きいのではないかと思いました。環境を整えてもらって、それに見合った仕事ができるのだろうかというプレッシャーがついて回るのではないかと……。働く母親として私自身も、仕事もちゃんとしたい、でも子育てや家のこともちゃんとしたい、でも収入も下げたくない、という葛藤があります。光畑さんは3人のお子さんを育てながら、そのあたりどのような思いでやってこられたのでしょうか。

光畑・波多野: 「ちゃんとしたい」という考えはやめた方がいいなと思っていて。仕事はもちろん責任を持ってちゃんとしないといけないんですけど、子育てに関しては「ちゃんとしたい」と思っている人はだいたい苦しくなっちゃうんですよ。

もともと私は完璧主義だったんです。1人目を産んだ時は、エクセルのようなソフトでミルクの量や睡眠時間を全て記録していたくらいです(笑)。なので、かなり頑張っていい加減になる努力をしました。積極的に人の手も借ります。その甲斐あって、今では周りの人は皆、私の子育てをいい加減だと思ってますね。頑張っていい加減にするくらいの方が子どもにとっても良いと思います。


 

光畑さんはよく「○○は無理って言うけど、いったい誰が決めたんですか?」ということをおっしゃいます。お話を聞き私ならどうするかと考えていくうちに、自分が知らず知らずのうちに常識にとらわれていることに気づかされます。無理だと決めつける前に、まずやってみること。言葉にすると簡単なように思えますが、その姿勢が組織に浸透するまでには一人ひとりが意識して挑戦し続けることが欠かせないように思いました。

さて、席替えをしてここからは企業ごとに机を囲みます。合同研修は最後になりますが、これで終わってしまうのではなく、今後も取組を続け、実のある変化を起こしていっていただくための具体的なアクションを話し合っていただきます。

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プログラム終了後も、各社の働き方改革が自走し続けるために

各社の発表で出てきた振り返りの一部をご紹介します。既に軌道に乗っているものもあれば、試行錯誤の最中にある取組も。一つひとつは小さな一歩かもしれませんが、第1回合同研修からの81日間で参加企業7社の中にいくつもの変化が起こりました。

○業務の棚卸しをして、31個の検討項目について方針を決めました。

○社員の誕生月に、社長が社会勉強を兼ねて食事に連れていってくれる機会を作ろうとしています。

○1人1日2時間分の作業削減を目標にして、セントラルキッチンを導入しました。

○社内全員にアンケートを取り、たくさん課題が見えてきました。今後も定期的にアンケートは続けていこうと思います。

○このプログラムの内容を共有するために、社内チャットを使い始めました。まだ反応は薄いですが、発信を続けていきたいと思います。

○チームごとに目標を設定してミーティングの機会を作り、週1回のリーダー会議も始めました。

○先月給料改訂を行いました。結果が見えるのは来年になりますが、良い報告ができるよう頑張ります。

○部署間での業務の押しつけ合いが生じているので、助け合い、ほめ合える仕組みを作っていきたいです。

最後に光畑さんから応援メッセージをいただきました。

「こうして色々な会社の方と交流ができていること、また、企業の経営者と従業員が机を囲んで話し合う状況ができていることが、まず一つの素晴らしい成果だと思います。プログラムを通して、最初の課題意識から想定していなかったところまで考えが広がっていると思います。何かひとつ問題を見つけた時に、話し合うこと、勉強すること、アクションを起こすことで、また新しい視点が得られます。おそらく1年後の皆さんは今よりもっともっと素晴らしい会社になって、社会に影響力を持っていると思います。私たちが力になれることがあれば、いつでもお声がけください。」

合同研修を終えて、参加企業7社の働き方改革チャレンジはここからが本当のスタートです。従業員の方々と門川京都市長との対談や、経営者の方々のトークセッションなど、今回の取組を発表するイベントも開催が決定しています。

そして来年3月の発行に向けて、各社の取組とプログラムの支援方法をまとめたタブロイド紙を鋭意制作中です。タブロイド紙の内容はWebサイトでも公開しますので、ぜひご覧ください!

 

会場:京都信用金庫 本店ビル2F クリエイティブ・コモンズ
写真・文:柴田明(SILK)


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