皆さんにとって働き方改革は、別の言葉でいうと「○○改革」ですか?│京の企業「働き方改革チャレンジプログラム」合同研修Day1レポート[前編]
2018年8月10日、京の企業「働き方改革チャレンジプログラム」参加企業5社から経営者と従業員、計25名にお集まりいただき、京都リサーチパーク内の会議室にて合同研修を開催しました。
まずは会社も職種もバラバラに座っていただき、お互いに自己紹介をするところからスタート。今回のプログラムでは、参加企業同士の学び合いも1つのテーマになっています。各テーブル、会社も職種もバラバラの状態で、障がい者雇用に取り組むNPO法人FDA理事長・成澤俊輔さんのお話を聞いていただきます。(以下、敬称略)
成澤: 皆さんこんにちは。こんな言葉を皆さんにまずご紹介ができれば嬉しいなと思っています。「勉強で得られることは答えではなく問いである」という言葉があります。この場所で、答えは見つからないですから。皆さんが一番、会社の現場のことをよく知っている。僕らが答えを出せることはないんです。今日色々な話を聞いて「僕らの会社ではこれが当たり前だと思っていたけど、ちゃうかったな」と、答えではなく”問い”を各社に持ち帰ってもらえたら嬉しいなと思います。
慶應大学に前野隆司という先生がいます。幸せを研究しているおもしろい先生で、彼がこんな研究結果を今年出していました。幸せな会社には4つの言葉が溢れているそうです。
「ありがとう」
「ありのまま」
「なんとかなる」
「やってみよう」
会社だけでなく、地域も同じかもしれない。家庭も同じでしょう。皆さん、明日から「ありがとう」っていっぱい言ってみましょう。なるべく会議で「やってみよう」って言ってみてください。働き方改革に答えはありません。でも、この4つの言葉が多く使われる会社が幸せだという1つの研究結果が出ています。こんな話から僕の話を始めたいと思います。社長がしょっちゅう「なんとかなる」って言ってたらちょっと危ない会社かもしれませんけど(笑)バランスよく使ってもらえたらと思います。
皆さんにとって働き方改革とは、何を変えることでしょうか。
成澤: 最初にこんなことを考えましょうか。働き方改革って、「休み方改革」「話し方改革」とかいろんな言われ方をしますよね。各自で30秒くらい皆さんにとっての働き方改革は別の言葉でいうと「○○改革」なのかを考えましょう。例えば「お金の使い方改革」でもいいと思います。「上司との関わり方改革」とか「通勤の仕方改革」とか色々あるでしょう。正解はありません、何でもいいですよ。ちょっと考えてみてください。皆さんにとって働き方改革とは、何を変えることでしょうか。
各テーブルで、
業務効率化改革
自分の時間の使い方改革
仕事のやり方見直し改革
残業改革
自分の意識改革
人生を豊かにする改革
会社の人の協力改革
生き方改革
働かせ方改革
など様々な答えが出て来ました。これからの1ヶ月間自分が何に取り組むべきなのか、それぞれの頭の中に具体的なイメージができ始めたところで、成澤さんのお話が続きます。
まず、「やらないこと」を決めてみてください
成澤: 僕は多くの経営者やリーダーを見てきて思いました。人はやることを決めるより、やらないことの方が決めやすい。成功している経営者は、多くの場合、やらないことをしっかり決めています。やりたいことは、数ヶ月、1年と時間が経つと、その時の興味や状況でけっこう変わると思います。でもやりたくないことはなかなか変わらない。例えば僕であれば、僕以外の人でもできる仕事はなるべくやらないようにしています。他には、これ以上拠点を展開することはやめようと思っています。やらないことを決めた方が、人生はすっきりします。まずやらないことを決めてみてください。
皆さんが来月また集まって、「アクションできませんでした」と言っても笑う人はいません。やらなかった時、うまくいかなかった時に、笑われると思うから色んなことができなくなります。ここでは、結果ではなくプロセスを重視したいと思います。何もできなくても、行くのやめようかなと思っても、ドキドキしながら、ここに来てください。月に1回でも、皆さんがなんで働いてるのかな、なんで会社ってあるんだっけな、と考える場になったらいいなと思います。
答えのない苦しみに悩む人たちに、「大丈夫」と伝えたい
成澤: 申し遅れましたが、僕は目が見えないんです。九州の佐賀生まれで、父が世界的な名医で、お姉ちゃんを3歳でガンで亡くして、僕は3歳で光を失う難病がわかって、幼稚園を海外で過ごして、小中高は日本の普通の学校に無理やり通って、大学に7年行ったうち2年引きこもって、在学中に入った経営コンサルの会社がリーマンショックで解散して、独立したら経営パートナーにお金を持ち逃げされて、5年前に髄膜脳炎という病気で3日間意識不明の重篤になりました。これまで4社のキャリアがありますが、4社中2社が経営危機に陥りました。けっこう色んなことがありました。そんな僕は、皆さんに1つの言葉を届けたいと思って今日やってまいりました。それは「大丈夫」という言葉です。
経営者の皆さんや社員の皆さん、日頃悩んでいることは何ですか?僕は、こういう新しいチャレンジをしようと思っている人たちが悩んでいることは、答えのない苦しみがあることだと思っています。残業時間が減らないことや、経営者との相性が悪いことじゃない。「なんで伝わらないのかな」「なんでこのタイミングで君が辞めるんだ?」そんな風に答えのない苦しみがいっぱいあるから、アクションができないんです。だから辛いんです。この事業も答えなんかないんです。答えのない苦しみに向かおうと思っている皆さんに、僕もキュレーターも伴走したいと思っています。
働くことの意味は、自分が自分らしくいられることじゃないかなと僕は思っています。
成澤: 少し僕の話をさせてください。働きづらさがある人の、その家族、その支援をしている人、行政の人たちに、働くことを通じて「大丈夫」と申し上げることが、僕の生きる意味です。最近こんなことがありました。ある飲食の会社で、うちが紹介した社員が働いています。彼はDVを受けて、ゲイで、クローン病で、パニック障がいを持っています。その会社で4年半正社員として働き、ボーナスを年2回もらっています。障がい者雇用で働いて正社員でボーナスももらっている人は滅多にいません。先月彼に会ってきました。会社へのリクエストはあるかと聞くと、なんて答えたと思いますか?「私も打ち合わせに同席させてほしい」って言ったんです。彼は満たされていなかったんです。会社に必要とされている、認められていることの一つのかたちが、打ち合わせだったんです。4年半働いてやっとそれを言えたんだよ。その場で上司と相談して、機会を設けることになりました。僕は、障がいがある人の来る場所を作り、業務を作り、ボーナスを払い、それでいいと思ってた。でも違った。残業がとか、給料がとか、色々あります。でも人が働く現場に求めているのは、突き詰めると自分が自分らしいと思えることじゃないかなと僕は思っています。
オタクやアーティストのように、社員が好きなことで力を発揮できる会社へ
成澤: もう1個だけ別の話をしていったん僕のスピーチを終わりますね。「強み」を活かして働こうっていう話によくなりますよね。でも僕は、人が最も会社の中でパフォーマンスを発揮できるのは、強みを活かして働けた時じゃなくて、仕事で自分の好きなことや興味があることをできた時だと思っています。人は強みを聞かれたら、強みではなく“なりたい自分”を言うんです。今、会社がどんどん「コミュニティ」みたいになっているように思います。チーム一丸となって頑張ろうって、モチベーションを上げようと言っても、今の20代の人には多分ピンと来ないです。
これだけ色々な働き方がある世の中において、一致団結というのは難しい。高い目標を持つことよりも、その人の好きなことや得意なことを仕事に活かせた時に、人は会社の中で最もパフォーマンスを発揮します。オタクとかアーティストみたいな人をいっぱい輩出できるようになったら会社はきっとブレイクスルーするし、それがこれからの会社のあり方だと思います。
プログラム参加企業同士が顔を合わせたのはこの日が初めて。最初に行った各社のご挨拶では「今回プロジェクトに参加することになったものの、正直まだピンときていないんですけど……」という声もあがっていました。まだそれぞれに場の空気を探っている緊張ムードの中、成澤さんのスピーチが始まると、様々な生き方・働き方をする人たちのリアルな言葉と力の込もった呼びかけを受けて参加者の皆さんの顔つきが変わっていくのを感じました。
今回の合同研修のゴールは、ここからの1ヶ月で行うアクションを1つ以上決めること。この後、成澤さんから働き方改革のヒントになる事例をたくさんお話いただき、会社ごとに集まってグループワークを行います。
○参加企業
株式会社KEIKAN
株式会社阪村エンジニアリング
大東寝具工業株式会社
株式会社仁木総合建設
株式会社フラットエージェンシー
写真・文:柴田明(SILK)