東京一極集中の打破を目指して、全国の「モテる公務員」が京都に大集結!! 「ソーシャル・イノベーション・サミット2016 in 京都」イベントレポート(前編)
2016年 8月27日。京都にある同志社大学・烏丸キャンパス志高館にて、「ソーシャル・イノベーション・サミット2016 in 京都」が開催されました。
「ソーシャル・イノベーション・サミット」は、地域や社会における課題に対し、革新的なアプローチで効果的・持続的な活動を行っている方々にお集まりいただき、参加者の皆さまと共に東京一極集中の状況打破や、地方創生を推進するネットワーク形成の促進を目指す取り組みです。一昨年の12月に初開催されました(1回目の様子はこちら)。
2回目の開催となった今回は、京都市の若手職員を中心に立ち上がった「モテる公務員サミット実行委員会」が企画を担当。セクターを越えて地域や企業など多様な人々を巻き込みながらまちの活性化に取り組む、全国の「モテる公務員」が京都に会し、共に切り拓く未来について語り合いました。
全国から200人を超す人々が集まったイベント当日の様子を、前編・後編に分けて、レポート形式でお届けします。
[当日のプログラム]
13:00-13:30 オープニング
開会挨拶|京都市長 門川大作/同志社大学政策学部学部長・教授 川口章 成果発表|「同志社から生まれるプレミア・ソーシャル・イノベーション」
13:30-14:50 第1部 パネルディスカッション「モテる公務員」と未来を切り拓く!
パネラー|円城寺雄介(佐賀県庁職員)/山田崇(塩尻市役所職員)/大室悦賀(京都市ソーシャルイノベーション研究所 所長) モデレーター|井上英之(慶應義塾大学 特別招聘准教授/京都市ソーシャルイノベーション研究所アドバイザー)
15:00-18:00 第2部分科会(参加者は8つのテーマの中から興味に応じた分科会に参加)
18:30-20:30 交流会
市長の挨拶から成果発表
門川大作京都市長の挨拶で、「ソーシャル・イノベーション・サミット2016 in 京都」は、幕を開けました。
市長は今回、京都市役所の若手職員の有志が中心となって結成された実行委員会によって、このイベントが企画されていることに希望を感じていると話し、さまざまな課題に直面する日本の状況を打ち破っていくのは「人間のネットワークの力」であると前置きしたうえで、「この場でモテる公務員のつながりをつくってほしい」と訴えました。
続いて挨拶されたのが、熊本県水俣市から参加された西田弘志水俣市長。
2016年10月の7〜9日の3日間で、「ソーシャル・イノベーション・サミット」に呼応する形で、「ローカル・ビジネス・サミット2016 in 水俣」を開催することが西田市長から発表されました(詳細はこちら)
次に、同志社大学政策学部の学部長・教授の川口章先生が挨拶されました。
川口先生は、世間の公務員に対するイメージが、徐々に「お役所仕事をする人」から「新しい政策を生み出す人」「地域の課題に取り組む人」に変わってきていると語りつつ、「この日の成果を持ち帰って各地域の課題解決に活かしてほしい」と、会場に訴えました。
そしてオープニングの最後には、同志社大学大学院の総合政策研究科の現役の学生やOBからの、「同志社から生まれるプレミア・ソーシャル・イノベーション」と題した成果発表が行われました。
1人目の発表者は、兵庫県の明石市議会議員の丸谷聡子さん。
子どもの頃から自然が好きだった丸谷さん。現在は行政などと協力しながら、環境教育コーディネーターとして自然と人をつなぐ活動を行い、地域の担い手育成に力を注いでいるそうです。
2人目の発表者は、同志社大学が運営する有機農業塾で農業を学び、現在は「ヴィレッジトラストつくだ農園」の代表として、京都の大原で有機野菜を栽培・販売する渡辺雄人さん。
同志社有機農業塾では、これまで11人の有機農家を排出し、そのうち6組が大原で就農。それにより、遊休地の解消、若手農家の増加、直売所との連携など、農村地域としての活性化につながっていると渡辺さんは話します。
続いて3人目の発表者は、同志社大学のソーシャル・イノベーション博士号を一度取得した後に、もう一度博士課程に入り直したという三田果菜さん。
三田さんは7年ほど前に、がん患者が笑顔でハッピーに暮らしていけるようサポートする「Happy Beauty Project」立ち上げました。「2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなる時代だからこそ、ガンになったらどうしようではなく、その後をどうやって生きるのかについて考える人を増やしたい」と、三田さんは言います。
現在は近畿圏全域をターゲットとした、がん患者専門の美容室を経営し、美容師を育成する教育プログラムも展開。さらに教育プログラムを行う上で必要となる、カラー・パーマ・アレンジができる人毛100%ウィッグ「wing wig」も開発しました。最近では韓国や台湾からもオファーがあって、海外の美容師教育なども行っているそうです。
パネルディスカッション前の思考の準備運動
ここから進行役を、慶應義塾大学特別招聘准教授で京都市ソーシャルイノベーション研究所アドバイザーの井上英之さんにバトンタッチ。第1部がスタートしました。
パネルディスカッションの登壇者である佐賀県庁職員・円城寺雄介さん、長野県塩尻市役所職員・山田崇さんの簡単な自己紹介の後、まずは井上さんが準備運動さながらに話し始め、参加者同士の交流を促します。
井上さん:これから近くの人と二つのことを共有して欲しいと思います。一つは簡単な自己紹介。もう一つは「今日あったよかったこと」をシェアしてください。
5分ほど時間をとった後、井上さんはその意図について次のように解説されました。
井上さん:問題解決の手法とか、ソーシャルイノベーションについてのスライドってネットにたくさん落ちているけれども、正しいことだけを言っていれば人は動くのかといったら、そうではありません。どこがトリガーになるのか、体感の中から探していかなければならない。そして、全人間を対象にしないと物事は動いていきません。
それこそが、今日のテーマの「モテる公務員」に必要なことであり、今日のゲストは、まさに市や県の行政という組織の中で、実践している方たちと言えます。
「今日あったよかったこと」というお題については、井上さんは次のように話します。
井上さん:例えば、大好きな温泉を思い浮かべると、脳は、本当にそこに行ったときとすごく近い働きをすることがわかっているんですね。これをセルフマネジメントの世界では「Resourcing(リソーシング)」と言います。いいことを考えるってすごくお得なんです。逆に怒られたことを繰り返し考えると、同様にダメージを受けます。
何を考えるか、私たちは選べます。そして何より大事なのは、ポジティブなエネルギーが出ている源泉が、自分とつながると新たなリソースが得られるということです。
今日の登壇者の3人は、みんな第一歩として、自分とつながることをしています。興味があること、好きなこと、熱くなれる何か。自分の内側から欲しい未来を描き、他者とつながりプロジェクトを起こし、プロセスで誰かを巻き込んでいく。そして、世の中を変える動きを広げていっているのです。
みなさんにも、“私”という存在が感じている日々の何かとつながることで、生み出されていく変化と流れを感じてもらえたらと思います。
さらに、井上さんは「もう一つやりたいことがある」と、再度二つのお題を出しました。一つは「今日ここへ来た理由」、もう一つは「今日が終わったとき、どんな自分でいたいか」。再び、隣の人と共有する時間がとられました。
共有後、「密かに思っているのと言語化することには違いがある」と、井上さんは話します。
密かに思っていることを言葉にして他の人に伝えることで、自分がどんな状態にあるのか気づくこと、これを「Awareness(アウェアネス)」と言います。日々忙しく何かに没頭している私たちは、自分の体調、組織の状態、地域のいいところなど、いろんなことに気がつかなくなってしまいます。そんなときに、この「Awareness」がとても大切になってきます。
今日の登壇者の3人は、私という存在の近くに仲間がいて、リソースがある。それを使って仕事やプロジェクトをすることで、その向こうの欲しい未来に近づこうとしているわけです。
今日をきっかけにして、みなさんにも自分がどんな人で、どんな背景があって、どこにいる私が、どんな未来が欲しいのかという「Awareness」を得てもらえたらと思います。そして、登壇者の方たちは「仕事を〜〜する」ことで実現したい未来に向かっているわけですが、「〜〜」の部分は試行錯誤されています。ぜひ、その試行錯誤に注目してください。
そして、井上さんは「そろそろ本編に入りたいと思いますが、その前に…」と前置きしたうえで、京都産業大学教授で、京都ソーシャルイノベーション研究所所長の大室悦賀さんに、「なぜ“モテる公務員”というテーマを選んだのか」という質問を投げかけました。
大室さん:“モテる公務員”は、イベントの企画をしてくれた京都市役所のメンバーのみなさんが考えてくれたテーマなのですが、こちらとして意図しているのは、役所の中でがんばっている、もしくはがんばろうとしているけれど、上司に理解してもらえず悩んでいる公務員の方と、そういう公務員に出会えない民間の方が出会って欲しいということです。
出会って、そして、欲しい未来に向かって行っていただけたらと思って、このちょっと変わったテーマを設定いたしました。
井上さん: 簡単に言うと、自分たちの役所の中にあるリソースと、地域にあるものをどれだけ越境してやれるかだと思うんです。どこにどんな人がいて、どんな情報があるのか知っていくことで、外とつながり、何かができるようになる。そのこと自体が、中で軋轢を生むかもしれないが、その時にどうやって乗り越えて動いているのか、注視して登壇者の方の話を聞いていただけたらと思います。
それでは、山田さんの話に入っていきましょう。山田さん、宜しくお願いします。
(後編へ続く)